第21話 涅哩底王
「作戦の目途は立った。キヌはかなり危険な役割になりそうだが、大丈夫か?」
「ん。アウンが立てた作戦……問題ない。それに多分一番危険なのは、アウン……全力で手伝う」
「アウンさん、キヌさん! 本当にありがとうございます!」
「礼は終わってからでいい。それじゃあ作戦を伝えるぞ。
まず、スタンピードは一度起こしたらコアを破壊するまで止まらないらしい。
だからニャハル村の建物や畑なんかは諦めるしかない。最優先は人命だ。
これを住民に納得してもらう必要がある。バルバル……できるか?」
「はい! なんとしても説得してみせます!」
「わかった。次に、スタンピードには波があるようだ。
第1波で出てきた魔物を殲滅しきれば数日は時間的な猶予ができる。
この作れた時間の間にニャハル村の住民をプレンヌヴェルト付近に避難させる。
避難先の建物は、10軒程度建てられる予定だ。足りない可能性もあるが、そこは避難後になんとかしてくれ」
「了解しました! こんな状況です。事情を深くは聞きません! 人命を助けることができる目途が立てられただけでも凄い事です!」
「そして魔物の殲滅方法だ。
戦う人員は俺とキヌの二人。今戦っている戦士たちも避難後に護衛する役割があるから見殺しなんかにはできん。
もちろん俺たちも殲滅が不可能だと判断したら撤退も考える。
その時は避難するタイミングが早まるからできるだけ早急に説得をしてくれ。
バルバル頼んだぞ」
「分かりました! 必ずやり遂げてみせます!」
「キヌは俺と魔物を殲滅する役割だ」
「ん。私たちは最強になる。夢は……終わらせない」
「そうだな! 思いっきり暴れてやろう!」
作戦を伝え終える頃にニャハル村が見えてきた。
まだ魔物は到達していないようだ。戦士たちが踏ん張っているお陰だろう。
村でバルバルと別れ、そのまま俺とキヌは砂煙が立っている方向へと全力で向かった。
そこには後退しながらもなんとか持ちこたえている8人の獣人の戦士達が居た。
「キヌ、いったん前線を押し込む。獣人たちを巻き込まないように範囲魔法で魔物を蹴散らしてくれ」
「任せて。【ファイヤーウォール】」
キヌがファイヤーウォールを発動すると最前線の魔物たちが炎の壁に焼かれ、獣人の戦士達は驚きながら振り向いた。
「俺はアウンという! この魔物たちは俺達が引き受ける!
あんたらはニャハル村へ戻って住民の避難を手伝ってくれ!」
「あ、あなた方は!? いったいどういう事なんです!?」
リーダーと思わしき熊の獣人が尋ねてくるが、そんな余裕はない。
「すまんが説明はバルバルから聞いてくれ!
それに、近くに味方がいると範囲魔法が使いにくい。
住民の安全確保があんたらの最優先事項だろ? 頼む!」
「バルバルの知り合いの方か……あなたのおっしゃる通りだ。すまぬが、ここは頼んだ!」
そう言って獣人戦士達はニャハル村の方へと走っていった。
なんとか納得してもらえたようだ。
その間にもキヌが最前線でファイヤーウォールを使い魔物を殲滅している。
さて! 俺も暴れますか!
「キヌ、俺を巻き込んでも構わねぇから、俺が討ち漏らした魔物を殲滅してくれ」
「ん。絶対アウンには当てない。任せて」
その言葉を聞き【迅雷】を発動させ、魔物を倒しながら前線を押し上げていった。
15分ほど戦っただろうか。
もう100体以上の敵を殲滅しているものの、数が減っている様子はない。
魔物はビッグリザード、グレートボア、ブラックウルフ、ハーピーなどDランクの魔物がほとんどであり、時々オーガやグレーターウルフなどのCランクが混ざりだしてきている。
後続の魔物の方が、ランクが高いようだ。
「全然数が減らないな。キヌMPは大丈夫か?」
「ん。減ってきているけど、まだ半分くらいはある」
「そうか、俺の方は……ングッ! こんな時に進化かよ……」
突如雷に打たれたような衝撃を感じた。
確かにこれだけの数を殲滅していれば、相手が格下でもレベルは上がる。
「アウン! 大丈夫!?」
「あぁ。ダメージを食らったわけじゃないが、進化みたいだ……」
「大丈夫、任せて」
キヌは俺を見て優しく微笑んだ。
「すまん、頼んだ」
キヌは俺の前に出て前線を膠着状態にしてくれている。
キヌに任せておけば大丈夫だろう。
俺は目を閉じて身体の力を抜いた。
≪特殊進化後のため進化先の選択は行えません。進化を開始します≫
・
情報が頭の中に流れてくる。
今回は選択が行えないようだが、戦闘中であるためむしろ好都合だ。
徐々に身体が光り出す。進化の痛みはほとんど感じなかった。
数秒後進化が完了し光が収まっていく。
最速でステータスの確認を行い、確認を終えたタイミングでキヌに指示を出した。
「キヌ、今から全力で暴れる。
新しいスキルも使うつもりだが、多分キヌも巻き込んじまいそうだ。
後方へ全速力で移動して、できる限りの防御策を取っておいてくれ。
もし防ぎきれないと判断したら即迷宮帰還で離脱しろ」
「わかった。アウンは大丈夫?」
「俺は全く問題ないよ。むしろ敵を心配してやってくれ。
じゃ、行ってくる」
「ん。いってらっしゃい」
キヌは最後にファイヤーストームで広範囲の敵を殲滅し、後方へ離脱した。
まったく出来た相棒だ。
俺の考えを即座に理解し、やってほしい行動を俺の期待値以上に行なってくれる。
さて、ここからは俺の仕事だ。
魔物達に恨みはないが、あいにく……我慢も自重もしねぇって決めてるんだ!
「安心しろ、痛みを感じる前に消し飛ばしてやる」
魔物の群れを見据える。
眼前にはCランクの魔物が集団で向かってきていた。
後方にBランクの魔物もチラホラ見え出している。
敵の総数は目算で500程度。第1波も大詰めといったところだろうか。
「【
【雷鼓】を発動すると、自分の背部に環状に連なる9つの雷でできた
そして全速で魔物の群れの中心に向かって敵をなぎ倒しながら直進していく。
程なくして、おおよそ群れの中心であろう場所に到達した。
「【
9つの電気の球を周囲に展開、それを両手で1つの大きな魔力の玉に纏め地上に固定。バチバチと
そして俺は空高く跳び上がり【空舞】で一度停止した。
さて、準備は整ったな。
「これが俺の最大火力だ! この辺の地形もろとも破壊し尽くしてやんよ!」
右手に魔力のほとんどを集中させる。
周囲にバチバチと放電音が鳴り響き、右手は黒い電気のオーラで満ちていく。
「【
【空舞】で空を蹴り地面目掛けて高速で突っ込み、オーラが充満している右の拳で地上に固定してある巨大な雷玉をぶち抜き地面を叩き割った。
直後、耳を
光が収まると、数秒前まで辺り一面を覆い尽くしていた魔物の姿は、俺を残して全て消失し、地面に巨大なクレーターだけが残っていた。
〈ステータス〉
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】羅刹
【状態】魔力自然回復不可状態(残1200秒)
【レベル】43
【属性】雷・闇
【HP(体力)】3450/3450
【MP(魔力)】1/1070
【STR(筋力)】99
【VIT(耐久)】37
【DEX(器用)】19
【INT(知力)】107
【AGI(敏捷)】111
【LUK(幸運)】35
【称号】迷宮の支配者Ⅱ
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・体術(Lv.3):体術で与えるダメージと衝撃がさらに強くなる(補正値向上)
・大食漢
・品評眼
・迅雷
・電玉→雷玉(変化):雷属性攻撃魔法、状態異常付与+威力増大、最大展開数9(MP消費30×展開数)
・装電→雷鼓(変化):INT値の40%をSTRとAGIに上乗せし攻撃に雷属性付与。雷属性の与ダメージ2倍(MP消費60)
・空踏→空舞(変化):3段跳躍、空中停止可能
・
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〈装備品〉
・赤鬼の金棒
・秘匿のピアス
・阿久良王和装一式
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