第31話 Sランク魔獣襲来
冒険者ギルドでクラン設立の申請を行ない、レクリアの街での目標はひとまず達成したと一息ついていた時、4人の冒険者が入口の扉から倒れ込むように入ってきた。
その全員が傷だらけで特に1人は一目で重傷だとわかるほどの出血をしている。
「キヌ、回復してやってくれ」
「ん。【ヒーリング】」
キヌが魔法で回復していくと重傷の冒険者の傷は徐々に癒えていく。俺も回復ポーションをマジックバッグから取り出し、傷が深そうな順に3人を回復させる。
見た感じ結構ギリギリだったけど間に合って良かった。
なんとか1人が話せるようになったところでギルドマスターのスパルズも駆け寄ってきた。
「何があった?」
「黒いドラゴンがこの街の方角に向かってきています! サイズからみてSランクの魔物かと……」
「なんだと!? 今どのあたりに居る!?」
「モルフィアの森です。進行している方角からすると……この街に来る確率が非常に高いと思われます……」
「くそっ! なんだってこんなタイミングで……」
「とりあえず重傷者を治療院に運んだ方が良くないか?」
俺が提案するとギルド職員が数名がかりで重傷者を運んでいった。
モルフィアの森に関しては嫌な予感がしていたが、それにしてもドラゴンとは……
「阿吽、いや【黒の霹靂】のメンバーは、ちょっと俺の部屋へ来てくれ」
「わかった」
少しした後、部屋へ通されるとすぐにスパルズが話し始めた。
「阿吽たちも知っての通りモルフィアの森の生態系が2週間程前から変化していた。
それで、今回調査のためにAランクパーティーを派遣していたんだ。それがさっきの4人組【幻想の春風】だ。
現在この街にはSランクパーティーは居ない。それに一番近いミラルダからでもレクリアに到着する前にドラゴンが街に入っちまいそうだ……。
で、だ……こんな事をお願いするのは心苦しいが、なんとかしてドラゴンの進行を遅らせてくれないだろうか……。
実力的にみると頼めるのが【黒の霹靂】しか居ないんだ……この通りだ! 頼む!」
そう言うとスパルズは深々と頭を下げた。
「そういうことか。んーまぁ、受けるのは構わないぞ? それは指名依頼として受けさせてもらうって事でいいか?」
「い、良いのか!? もちろん指名依頼としてクエストを出そう!
本当にすまん。本来はSランクへの指名依頼レベルの案件だ……報酬はしっかりと出す!」
「あぁ。報酬の件は後でいい。とりあえずもう少し詳しい情報や考えている作戦を教えてくれ」
「まず、さっき阿吽達も聞いた通り、ドラゴンがこの街の方角へ進行中。【幻想の春風】が言うにはSランク相当の個体だ。
今しがた通信型魔導具でミラルダの冒険者ギルドには救援要請はしておいた。早ければ半日、遅くても1日以内にはこちらへSランクパーティーが到着するとは思う。
なぜドラゴンがこの街へ向かってきているのかは不明だが、とにかく市民の避難を最優先に行うことになる。
【黒の霹靂】は住民の避難が完了するまでの時間稼ぎをして欲しい。とにかく少しでも進行を遅らせてくれ」
「わかった。ってか、討伐できるなら討伐してもいいんだよな?」
「もちろん……それができるのであればしてほしいのだが、さすがに危険すぎる。そこまでは頼めん……」
「分かった。じゃあ今から向かう。キヌとシンクもそれで大丈夫か?」
「ん。問題ない」
「阿吽様とキヌ様の行く所が、わたくしの行く所でございます。わたくしへの了承は必要ありません」
「よし、んじゃ行くとするか!」
「本当にすまん……。よろしく頼む……」
スパルズはそう言うと再び頭を深く下げた。
「おいおい、こういう時はもっと気合い入れて送り出してくれよ、スパルズ。ギルドマスターだろ?」
「……フッ、そうだな。
よし、行ってこいお前ら! 街の方は任せておけ!」
「おう! 行ってくる!」
西門から街を出ると、ほどなくして森の方角から巨大なドラゴンがこちらへ向かって飛んできているのが確認できた。
予想よりもかなりペースが速いな。ってか、これは街からでも見えるレベルじゃね? 混乱が起きなきゃいいけど……。
「俺が先行して叩き落としてくる。二人はできるだけ早く追いついてくれ」
【迅雷】を発動し、先行して駆け出す。
そしてドラゴンに近付くと、そのままの勢いでジャンプし、マジックバッグから赤鬼の金棒を取り出して顔面目掛けて殴りつけた。
虚を突かれたドラゴンはその攻撃をモロに受け、地面へと叩きつけられたが、すぐに起き上がりこちらを
間近で見るとかなりデカい。オーガも一飲みにできてしまいそうだ。それに翼を広げるとそのサイズはさらにデカく見える。
『ギャルルルロォォォォォ!!!!!』
すさまじい咆哮と共に空へ飛びあがり、尻尾で横薙ぎに攻撃をしてきたが、ジャンプと【空舞】で回避する。
攻撃のスピード自体は対応が可能なレベルだが、一撃もらうとヤバそうだ。
「阿吽、大丈夫?」
「あぁ、回避自体は可能だが、飛ばれると厄介だな。キヌは魔法で翼を狙ってくれ。シンクはキヌに攻撃がいかないように【挑発】のスキルで注意を引き付けてほしい」
「ん。分かった」
「了解いたしました」
キヌとシンクが到着してからはターゲットが分散し、そのぶん俺も攻撃できる回数が増えた。
この1週間はクエストを一緒にこなしてきたが基本的にソロでも討伐できるレベルの魔物ばかりを相手にしていたため、このパーティー3人で協力し魔物と対峙するのは初めてだ。
だが、役割のバランスが取れており、お互いの意思疎通もできている。
キヌへの攻撃もシンクがドラゴンとの間に位置取ることで対応することができており、シンクがダメージを負うとキヌが魔法で回復させる流れが確立してきてからは安定した戦闘が継続できている。
このままいけば討伐もできそうだ。
しばらく攻撃を続けていくと翼への攻撃が効いたようであり、ドラゴンは空中で体勢を崩し、地面へと墜落していった。
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