第181話 血の匂い
~ネルフィー視点~
「それで、闘技場まではどれくらいで着きそうなんだ?」
「敵がこの通路を知っていると仮定して、慎重に進んだ場合は20分程ですね」
「ふむ。ならば、その時間にマイケルの知っている情報を詳しく教えて欲しい」
「分かりました。しかし……話し声で敵に気付かれませんか?」
「探知スキルは常時発動しておくから声の音量に気を付けてくれれば会話くらいは問題ないはずだ」
地上を進むよりも時間はかかるが、地下通路を使えたことにより最難関と考えていた闘技場への侵入の目途が立ったのは大きい。
恐らくフェルナンドは私たちがアルラインに来ることは知っているだろう。そうなると、警戒しなければならないポイントも想定されているはずだ。今回の戦いはフェルナンドが仕掛けた反乱という事もあり、私たちは常に後手に回らなければならない状況が続いている。その差を出来るだけ縮めるためにも情報という武器を少しでも多く、正確に得る必要がある。
「では、私が今まで調べた情報をお伝えいたします。まず、王城内はフェルナンド派が占拠している状態であり、国王の死亡という情報は入ってきておりません。次に民間人のほとんどは闘技場に移動させられ、移動が困難な者やその家族は自宅に監禁されている状態です」
「そこまでは私が知っている情報と相違ない感じだな」
「闘技場の警備に関してはかなり厳重と言っていいでしょう。この地下通路を除いた全ての出入り口は封鎖され、侵入や脱出は困難な状況です」
「ふむ……集められた人数が多いと言っても、民間人であれば戦う能力がない者が殆どだろうしな。ただ、なぜそんな厳重に出入口を守る必要があるのだ?」
「それは調べてみないと分かりませんが、恐らく警備している兵士達にはそこまで詳しい理由は伝えられてはいないでしょう。もし知っているのであれば、私の耳にも入ってきていたと思うのです」
「マイケルのスキルでも知り得ないのであればそうなのだろうな……」
「はい。隠れながら情報収集を続けていましたが、それらしい情報は不思議なほど得られておりません」
「そこまで徹底した情報統制を行っているとなると……重大な何かを隠していると言い換えることもできる」
「その通りですね。っと、この十字路を左……」
マイケルが曲がり角に差し掛かる直前、微かな殺気と血の匂いがし、一瞬後れて探知スキルに人の気配を感じ取った。
咄嗟に話している最中のマイケルの口を塞ぎ自分の方に引き寄せると、それまでマイケルの居たところを2本のナイフが通り過ぎた。
「おかしいですねぇ。確実に殺したと思ったのですが……、久々過ぎて腕が鈍ったのでしょうか?」
聞こえてきたのはどこか不快に感じる声。そして、その直後に暗がりから現れたのは不気味な雰囲気を醸し出す痩せた長身の男だった。
「な……なぜあなたがここに……」
その男を見た途端、マイケルの顔からは血の気が引いていた。
敵であるのは間違いないのだろうが……私の探知スキルより早く私たちを発見し、何の躊躇もなく急所目掛けて投げられたナイフ。
明らかに人間を殺し慣れている者の手際だ。
「マイケル、こいつはだれだ?」
「10年前に王都を騒がせた連続殺人犯……。確か、“血濡れのジョセフ”……だったと記憶しています」
「おや? 嬉しいですねぇ……まだ私を覚えている人が居るなんて」
「いや、しかし……あなたは地下牢に捕らえられていたはず! なぜここに居るのですか!?」
「それは言わないって殿下と約束しちゃいましたから……。おっと、言ってしまいました。悪い口です……」
「フェルナンドが手引きして脱獄させたか」
「そういう事でしょうね……」
それにしてもこのジョセフという男、重大な情報を漏らしたにしては全く焦った様子を見せていないどころか、その口元は心底嬉しそうに歪んでいる。
「うーん、これであなた達二人とも殺さなくてはいけなくなりましたね。いやぁ、仕方がない。知られたからには殺すしかないのですから。……まぁ別に理由が無くとも殺すのですけれどもね?」
「良く喋る男だな。何をそんなに高揚している?」
「考えても見てください。10年ぶりの殺人ですよ? 誰だって気分が高揚するじゃないですか」
「……嘘だな。それならば、なぜお前から血の匂いがする?」
「クフフ、分かっちゃいます? ただ……
会話をしながらその動きや姿勢を観察をしているが、とても10年間牢に捕まっていたとは思えないほど隙らしい隙がない。それにこれほどの実力者を、一体誰が捕縛したというのだろうという疑問も出てくる。
ただ、明確なのは
さて、どうやって殺さず捕縛するか……。これは骨が折れそうだな。
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