第112話 伝説級装備


~阿吽視点~


 観戦していたみんなが俺の所に来たのと同時にアークキメラがダンジョンへと吸収されていき、地面から宝箱がでてきた。


「お、おい……これって、ヤバくねぇか……?」


「紫色にみえるっすね……」


「だよな。俺の見間違いじゃないよな?」


「罠はないようだ。今回は文句なしに阿吽が開けるべきだと思うぞ」


「……あぁ。うん……いや、まさかな」


 箱が紫だからって中身まで紫ランクとは限らない。それに、伝説級と呼ばれる紫ランクの武具なんか各国に1つくらいしかない希少なモンだって聞いたことがある。

 最近感覚が麻痺してきているが、本来は赤ランクでも十分ありがたいんだ。

 期待しちゃダメだ、期待しちゃダメだ、期待しちゃダメだ……


「とりあえず開けてみよ?」


「そうだな……よし、開けるぞ!」



<茨木童子和装:遥か昔、強大な鬼が装備していたとされる男性用の和装一式。装備に魔力を流す事で防御力が増加。装備する者の力量によってその強度は変化し、破損しても自動で修復される機能が付いている。伝説級の防具(防御値25~)>



「ハハ……マジかよ……」


「兄貴、どうっすか?」


「……紫ランクの男性用和装一式だ」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「マジっすかぁぁぁぁぁ!!??」


「マジだぁぁぁぁぁ!! フォォォォォォォ!! ヤベェェェェ!!!」


「と、とてつもないな……紫ランクの防具で、和装を引き当てるとは。さすがに引くレベルの幸運だぞ……」


「……さすが阿吽」


「すばらしいです! これは阿吽様がお使いになるべきですね!」


「いいのか!? 本当に俺が使っていいのか!?」


「当たり前じゃないっすか! 兄貴の力と幸運で勝ち取ったものっすよ!」


「っしゃぁ! 使っちゃうぞ! 俺、使っちゃうぞ!!」


「ん。とりあえず拠点に戻ろ」


 それから拠点へと戻り、すぐに着替えを済ませた。

 宝箱に入っていたのは羽織・袴・手甲・肩当であり、今まで使用していた阿久良王和装を取り換える形となる。阿久良王和装も今後どんな形で使用するかは分からないため、売ったりはしないつもりだ。


「おまたせ、着替えたぞ。今までも和装を使ってたから、動きにくさも無いし単純に性能が向上したって感じだな」


「ん。凄く似合ってる」


「やっぱ兄貴といえば和装っすよね! めっちゃカッコいいっす!」


「ありがとな! んでな、この装備魔力を通すと防御力が向上するみたいなんだ。武器に魔力を通すみたいにな。これも魔族との戦闘で有利に立ち回れるポイントになりそうだ」


「そうっすね!」


「それにしても凄い戦いでございました。さすが阿吽様でございます」


「兄貴の本気初めて見たっすよ。正直、兄貴を目標にしている俺にとっては、少しヘコみました。背中は遠いなーって。けど、同時に嬉しかったっす。目標はやっぱりでっかい方が良いっすから」


「クエレブレにも言われたけど、俺達は全員がまだまだ成長過程。ということはもっと強くなれるって事だ。ドレイクには前にも話したが、自分にしかできない戦い方、戦闘スタイルってのがある。

 それに、ドレイクが目標って言ってくれてたりするから、俺も良い意味で緊張感があるんだぞ?」


「そうっすね……

 あ、そういえば最後の攻撃、あれめっちゃ火力ヤバいじゃないっすか! それに途中から目で追うのがギリギリなくらい高速で動いてましたけど……」


「最後の攻撃は【涅哩底王】。スキルの中でも技巧アーツって呼ばれるヤツだ。正直なところ、まだよく分かってないけど、魔法とかスキルの組み合わせみたいな感じだな。

 あれは瞬間火力がとんでもないんだけどデメリットもある。発動後はMPが1になって20分間回復しないっていうな……。

 スピードが上がったのは【祭囃子】ってバフスキルで、テンション上がると発動っていう特殊な条件がある。発動条件自体は不確定要素だけど全ステータスが2倍になるぶっ壊れスキルだ。ただこれも効果時間が終わるとステータス半減するってデメリット付き。まぁ普段使いはできないな」


「そんなのもあるんっすね……俺も色々試してみようかな」


「スキルの取得条件はいまいち分かんねぇけど、色々試してみる価値はあると思うぞ」


「うっす! 頑張ります!」


 人種である場合、スキルというのは本来そう簡単に“増える”ものではない。

 俺やキヌ、シンクに関しては大枠として『魔物』という括りに分類されており、“進化”という人間からしたら理解が及ばない変化を何度も経験しているため、スキルが取得しやすい節もある。

 だが、ドレイクやネルフィーに関しては亜人であっても大枠は人種だ。ネルフィーは長命種ということもあり、100年以上に及ぶ生の中で、多くの優れた師からスキルの根幹部分を刷り込まれているが、ドレイクに関してはその経験や知識も持ち合わせていない。

 しかし、竜人族から龍人という種族へ進化した経験と、持ち前の戦闘や魔法におけるセンスは人種の中でも間違いなくトップクラスに入っているだろう。

 そのドレイクであれば、これからの戦闘に於ける試行錯誤の中で新たなスキルを獲得する可能性は十分にある、むしろ獲得しないはずがないと俺は考えている。


「よし、んじゃダンジョンに戻るか! ん? ルザルクから連絡だ」


 周回を再開しようとしたタイミングでルザルクから通信用魔導具で連絡が入ってきた。


『阿吽、今大丈夫かい?』


『あぁ、ちょうど拠点で休んでる。集合する日にちは3日後じゃなかったか?』


『そうなんだけど、ちょっと予想外の情報が入ってきだんだよ……それで少し早いけど会合を明日の朝に前倒したいんだ。話し合いの方向次第で予定を変更する可能性もある』


『まずは情報共有って感じか……わかった、明日の朝だな。場所はいつもの所か?』


『そうだね。それじゃあよろしく』


 その後、ルザルクから予定の変更の連絡があった事について4人に伝え、会議の出席は毎回俺だけって事もあり、一人でアルラインへダンジョンへと転移で帰還した。

 他のメンバーはこのダンジョンに残ってレベルを上げ、アークキメラに挑むことになったのだった。

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