第2話 俺、ゾンビ!
目を覚ますと血生臭さと腐臭が鼻を突いた。視界は暗いが、ひんやりとした土の感触を手と頬に感じ、うつ伏せで倒れていることが分かった。
(そうか、思い出した……確かステータスを確認して、意識が飛んだんだった……)
少しずつ状況を整理していく。自分を落ち着かせるように。
(土の冷たさや触っている感触が分かる。視覚と嗅覚も機能しているようだ。身体は動くのかな……)
――ガサッ、ガサッ……
(腕や指、足も動かせる。……立ち上がってみるか)
ゆっくりと視線が高くなっていく。それと同時に、周囲や身体の状況などが少しずつ判明してきた。革のジャケットは胸の部分が大きく破れており、ズボンは泥だらけだ。身体は傷口から腐りだしている……。手は爪や皮膚が剥がれ、肉が露出しているところもあるが、不思議と痛みを感じる箇所は無い。
今いる場所は殺された時と変わっておらず、常闇の森であることが理解できた。
「ぅウェーアグ……う? う、ウェーあグゥ……」
“ステータス”と喋ろうとしたがうまく発音できない。
意識はハッキリとしており、意外と冷静に思考できているのには、自分でも驚いている。
(なんとかしてステータスを確認したい。強く、念じてみるか……)
(ステータス!!)
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】ゾンビ
【状態】腐敗、空腹
【レベル】1
【HP(体力)】20/20
【MP(魔力)】300/300
【STR(筋力)】5
【VIT(耐久)】5
【DEX(器用)】1
【INT(知力)】30
【AGI(敏捷)】1
【LUK(幸運)】35
【称号】—
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・空腹
(見えた! 種族がゾンビ……魔物……なんとなく分かっていたが、ショックだ。なぜこんな事になったのかはマジで意味不明だな)
でもまぁ、昔爺ちゃんに『いくら考えても分からないことは、分かる時まで考えるな。それよりも今できる事を全力でやれ!』って教わったから、それは後回しだ! 今は現状の確認をしよう。
【レベル】は1。ステータスも大幅に低下しているし、何より敏捷値が1しかない。これでは移動するだけでもどれだけ時間がかかるのだろうか。幸運値だけは人間だった時の3倍もあるのは皮肉な……
(ん? スキルが増えてる……スキルって増えるんだっけか?)
【スキル】
・鉄之胃袋:何を食べても消化吸収できる、腹を壊さない
・痛覚耐性:痛みに強い耐性があるが完全ではない
・空腹:常に空腹状態となる。どれだけ食べても満腹にはならない
『鉄之胃袋』は俺が人間だった時から持っていたスキルだ。これのお陰で腹を壊したことがないが、戦闘に役立つ事はないし、他者からの評価は“ゴミスキル”というやつだった。
『痛覚耐性』はありがたい。これがなかったら、今頃全身の痛みでのたうち回ってるだろう……
『空腹』がマジでヤバい。これは種族がゾンビだからだろうか。どれだけ食っても満足できないのは辛すぎる。
(どうやらスキルは増えるらしい。そう納得しておこう。……ステータスは一通り確認した。次は今置かれている状況だけど……)
ここは常闇の森で間違いないだろう。常闇の森はアンデッドの魔物が出現するが、共通して動きが遅く知力も低い。しばらくはなんとかなりそうだ……
次に考えなければならないのは冒険者との遭遇。俺は今、間違いなく“魔物”だ。それは冒険者に狩られることを意味している。
ただ、下位のアンデッドは素材として使えるものが全くない。クエストで稀に出るのは『アンミンダケ』という催眠効果のあるキノコの採取だ。クエストのランクで言えばEランク。そのレベルの冒険者なら、遭遇する前に自分のレベルを上げれば、追い返すくらいの事はできる。
(あとは、俺の強みか……)
まず、冒険者としての知識があることだ。魔物のランクや弱点を知っている。この森以外の事も、長年の冒険者生活で経験したことは、いずれ役に立つだろう。
次にマジックバッグ。この中には遭難してもなんとかできるだけの地図や道具が入っている。
(とりあえずの状況整理はこんなもんか。よし、少しでもレベルを上げることが最優先! そうと決まれば、まずはさっそく魔物を探そう!!)
ゾンビになった俺は、破れて血まみれのジャケットを脱ぎ捨て、ゆっくりと森の中を歩き出した。
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