「魔物になったのでダンジョンコア食ってみた!」~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~

幸運ピエロ

第一部 

第一章 ダンジョンコア食ってみた

第1話 始まりと終わりの名を冠する男

 俺の名前はアウン・ドウメキ。28歳の男だ。


 北方にある武京国、通称"和の国”という島国のサムライだった爺ちゃんが名付けたらしい。『阿吽(アウン)』、漢字で書くと“全てを司る“とかそんな意味だと言っていた。たいそうな名前だと思うが、結構気に入っている。


 職業はCランク冒険者で上級剣士だ。アルト王国の王都アルラインで生まれ育ち冒険者となったが、10年前からはここ『レクリアの街』でソロ活動をしている。


 パーティーを組まないのは、駆け出しの頃に組んだパーティーのメンバー達に裏切られ、死にかけたことがあったからだ。

 いつ死んでもおかしくはない職業だが、やはり死ぬのは怖いし、ましてや裏切りなんかで死にたくない。


(あいつら……【嵐の雲脚】は、確か5年前にSランクになったんだっけ……)


 出来るだけ思い出さないようにしていた昔の仲間たちの事を思い出すが、今の俺には関係がないことだと思考を切り替える。

 こんなことを思い出してしまったのも、今日あったアレが原因なのだろう。


 クエストを終えて帰還する際に偶然ダンジョンを発見し、少し様子を見るために足を踏み入れ、入口近くで宝箱を見つけた。

 それだけでなく、かなりレアな武器が出たのだ。


 レクリアに帰ってきてから武器屋へと駆け込み、鑑定してもらった結果は、『魔剣フラム』。

 困惑していると、武器屋の親父に「俺は【品評】のスキルを持っているから間違いはない」と言われた。


 鑑定結果に少し浮かれながら、愛用しているロングソードの手入れを依頼し、魔剣フラムをマジックバッグに入れて武器屋を出る。


(まずは冒険者ギルドに行って、ダンジョン発見の報告だな! これでB……いや、Aランクも見えてきた。 腹は減ってるけど、飯はその後だ!)


 考え事をしながら歩いていると背後から声を掛けられた。


「あなたがアウンさんですね」


 振り返ると豪華な装備を付けた3人の冒険者がいる。話しかけてきたのは金髪で顔の整った剣士。その後ろにいるのは魔術師と癒術師であろう美女二人。

 最近王都からクエストでレクリアに来ていると冒険者ギルドで噂になっていたパーティーだ。

 (こりゃ噂にもなるわ)と考えつつ返事をする。


「そうですが……何かご用ですか?」


「僕はAランクパーティー【赤銀の月】のリーダー、マーダスです。あなたに協力してもらいたい事があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」


「協力? 内容にもよりますが……」


 そう答えるとマーダスは近くまで寄ってきて小声で伝えてきた。


「実は……内密な話になりますが、常闇の森でユニコーンが出たらしいんです。その討伐を手伝ってくれませんか?」


「え!? あ、でもAランクパーティーなら討伐できるのでは? それに、なんで俺なんですか?」


「ユニコーンはとても逃げ足が速い魔物です。このパーティーで前衛は僕一人だけなので、確実に討伐を成功させるためにもう一人前衛のアタッカーが必要なのですが……ユニコーンの角は高値で取引されているため分配でトラブルになることがよくあります。アウンさんにお願いした理由は、ソロ冒険者で前衛職だからです。ソロ冒険者のあなたなら依頼金で分配は交渉できると考えました。依頼金は前払いで金貨10枚。成功報酬として金貨20枚支払います。協力してもらえないでしょうか?」


(……できれば他人とは組みたくないが、金貨30枚もあれば、半年はゆっくりと過ごせる。それに、こんなおいしい話は滅多にない……)


 レクリアに来てからまともに休暇といえる程の休みを取った事のない俺は、少しゆっくりとしたいというのも心のどこかで考えていた。しかし、積極的に冒険者稼業を行える年齢や引退後の生活を考えると大きな収益でもない限りどうしても休暇を取る事ができなかった。

 パーティーでクエストを受けるというのはやはり抵抗感は強いが、今回の依頼限定であれば協力するのはアリか……今の俺には魔剣フラムがあるし、ガキだった頃の俺と比べて色々成長出来ている部分も多いだろう。


「わかりました。“今回だけ”ということであれば、協力しましょう」


「ありがとうございます! これは前金の金貨10枚です。それでは向かいましょうか!」


「え? もうすぐ夕刻ですが、今から向かうのですか!?」


「ゆっくりしていると逃げられてしまいますからね! 今から行けば、日が落ちきる前に常闇の森に入れるかもしれません。急ぎましょう!」


 俺は少し不安に思いながらも【赤銀の月】の後に続いて街を出た。



◇  ◇  ◇  ◇



 街を出た俺達は、平原の魔物を全て無視し駆け抜けていったものの、常闇の森に到着すると辺りはもう真っ暗だった。

 だが、周囲が見渡せるように、魔導士のステアが光魔法【ライト】で周囲を照らす。この魔法を使えるため強行的に探索をする決断をしたのだろうか。多少暗いが一応視界は確保する事ができている。


 森に入ってから20分、前衛に俺とマーダス、中衛は癒術師のカトリーヌ、後衛にステアの隊列で森の中を進んでいくが、ユニコーンどころか魔物の姿も見当たらない。するとマーダスが指示を出してきた。


「少し地図を確認します。アウンさんは後方の安全確認をしておいてください」


 俺は「分かりました」と答え、隊列の一番後ろに向かって歩きだす。

 その直後、背後からマーダスの声が聞こえた。


「見つけました! 全員戦闘準備っ!」


 その声に反応し、即座にマジックバッグから魔剣フラムを取り出しながら振り向く。


――ドスッ――


 次の瞬間、胸に強い衝撃を受け、俺は背中から地面に倒れた……


「な、ガハッ…ゴホッ……」


 何が起こったのか理解ができなかった。胸部を見ると剣が刺さっている。


(どう……なっている……ユニコーンは?)


「あーっはっはっはっ!! こうも簡単に引っかかるもんかねぇ?」


「バカでよかったじゃん! 楽に終わったし!」


「まぁ、それもそうか!」


「うふふっ、馬鹿な男。まるでゴミクズね」


 【赤銀の月】の3人の不快な笑い声が聞こえる。


 どうやら俺は騙されていたようだ。そう考えると辻褄が合ってくる。

 3人のうちの誰かが、武器屋で魔剣フラムの鑑定結果や、武器屋の親父との会話を聞いたのだろう。

 マジックバッグに入れた物は所有者本人しか取り出すことができない。だから俺を騙して森の中に誘い出し、自ら魔剣フラムを取り出す状況を作った、ってことか。


「そういう……ことかよ、クソが…………」


「理解が早くて助かるよ。この魔剣は僕がもらっていくから。あー、前金はくれてやるよ」


「マジックバッグに入れてるだろうから、どうせ取り出せないしねー!」


「ねぇ、もう終わったのですし早く帰りましょうよ。こんなゴミと一緒の空気吸っていたくないわ!」



 俺は痛みに耐えながら最後の力を振り絞り立ち上がる。

 全てを理解すると、徐々に怒りと憎悪の感情が込み上げてきた。


「ぜってぇ……許さねぇ……」


「しつこいなぁ。それに許すも何もさぁ、お前もうすぐ死ぬでしょ」


「せいぜい足掻きなさい」


 マーダスが俺の胸に刺さっている剣を引き抜き、うつ伏せに倒れこんだ俺の頭を踏みつける。


「苦しみながら、死になよ」


 その言葉を最後に3人は笑いながら常闇の森の外へ向かって歩いていった。





 血だまりが広がっていく……痛みは既に感じない。指の先がビリビリと痺れる感じがするだけだ。情けなさと悔しさと、怒りと憎しみの感情が渦巻き、身体を動かそうとするが全く動かない。


「ス、テー……タス」


 そうつぶやくと脳裏に自分のステータスが浮かび上がる。【HP(体力)】は残り5、【状態】『失血』となっている。


【HP(体力)】4

(俺は……また、騙された……)


 減少していく体力を見ながら考える。


(もう、どうすることもできないだろう。俺はこのまま死ぬんだ……)


 死を受け入れると頭は次第に冷静さを取り戻していく。


【HP(体力)】3……2

(何も……何も成し遂げられない人生だった。裏切られ、騙され、我慢し続ける人生だった……)


【HP(体力)】1……

(生まれ変わったら……もし生まれ変わったら……もう我慢なんてしない! 好きなように生きてやる!)


【HP(体力)】0

(生まれ変わったら……もっと強く……誰よりも強く!!)



(……ん? え??)


【HP(体力)】0/0

(ちょっと待て、なんで意識があるんだ?)


 意識は鮮明だ。目も見えているし、ステータスも見える。もう一度しっかりステータスを確認すると、


【状態】死亡

【HP(体力)】0/0

(死亡……死んでいる。死ぬってこんな状態なのか? もっとこう天に昇っていくとか、幽体離脱とかを想像していた。まぁ、いずれにしても身体は動かないし声も出ない。視覚以外の感覚も無いんじゃ何もできないか……)



◇  ◇  ◇  ◇



 どれくらいの時間が経ったのだろう。3~4日は経っている気がするがよく分からない。

 相変わらず目はぼんやりと見えるし意識もある。


(今できることはステータスの確認だけだ)


 そう思いながら何十回目かのステータス確認を行うと……


【状態】腐敗

【HP(体力)】0/0

(く、く、腐りだしてるぅぅぅぅぅ!!!! なんだ、どうすればいい! どうすればこの意識は途切れる! れ……冷静になれ、そうだ! 『どうしようもない時は時間が解決してくれる』って爺ちゃんが言ってた!)


【状態】腐敗

【HP(体力)】0/5

(ん? 体力の最大値が…)


【状態】腐敗

【HP(体力)】0/10

(ちょ……え!? え!?)


【状態】腐敗

【HP(体力)】0/20

(増えてるっ!? 爺ちゃんっ! 最大値が増えてるよぉぉぉ!!?? ちょ……待て待て! ほ、ほかの項目も確認っ!)


【名前】百目鬼 阿吽

【種族】ゾンビ

【状態】腐敗

【レベル】1

【HP(体力)】20/20

【MP(魔力)】300/300

【STR(筋力)】5

【VIT(耐久)】5

【DEX(器用)】1

【INT(知力)】30

【AGI(敏捷)】1

【LUK(幸運)】35

【称号】—

【スキル】

 ・鉄之胃袋



 この情報を見た瞬間、全身に焼けるような熱さと、ビリビリッとした鋭い痺れを感じ、数日ぶりに意識を手放した。

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