第3話 レベルアップの恩恵と初めての進化
歩き出してから六時間、ダメージを負いながらも倒したのは、スケルトン九体。
スケルトンは攻撃力が低く、動きも鈍いため一体ずつであればゾンビの身体でも比較的倒しやすかった。
(子供の喧嘩みたいになってたが……)
分かったことは、自分の動きが遅すぎて全然移動ができないし、相手の攻撃を避けられない。
あと、俺も魔物に襲われる。同じ魔物だからといっても容赦はないようだ。
さて、そろそろレベルは上がっただろうか。
(ステータス!)
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】腐鬼ゾンビ
【状態】腐敗、空腹
【レベル】7(残21ポイント)
【HP(体力)】7/20
【MP(魔力)】300/300
【STR(筋力)】5
【VIT(耐久)】5
【DEX(器用)】1
【INT(知力)】30
【AGI(敏捷)】1
【LUK(幸運)】35
【称号】—
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・空腹
(レベル7!? ……ん? 残21ポイント? レベルは上がっているのにステータスが変わってないってことは……レベルアップ時にもらえるポイントの割り振りを自分で決められる? いや、まさかそんなこと……)
試しに【AGI(敏捷)】を1増やそうとしてみると、残20ポイントとなり【AGI(敏捷)】の値が2に増えていた。
(マジか……)
死ぬ前はステータスポイントを自分で決められるなんてことは聞いたことが無い。というか“残ポイント”という項目がステータスに記されていた話すら聞いたことが無い。
そもそもステータスとは、『生まれ持った才能や、それまで積み上げてきた努力が数字として表れている』と一般的には考えられてきたし、人間であった時は俺自身もそう思っていた。
だが、もしかしたら魔物はその逆で『ステータスにあわせて肉体が変質する』のかもしれない。となると、知能の高い魔物ならば自分の長所に合わせたステータスをレベルが上がるごとに振り分けている……のか?
まぁこのあたりの事は今考えてもよく分からないが、『残ポイントの割り振りを自分で決められる』というのは、自分の強みを最大限に活かし、弱点を補完できるのだから相当なアドバンテージになるのは間違いない。
これは、今持っている情報や考えを一旦纏めておいた方が良さそうだな……。
まず、残ポイントの割り振りができそうな項目は、【STR(筋力)】【VIT(耐久)】【DEX(器用)】【INT(知力)】【AGI(敏捷)】の5つ。
現状、“腐鬼ゾンビ”という種族で生きていくことを考えると、
それに素早い相手と対峙した時、投げる前に攻撃されたら詰んでしまう。人間だった時も前衛職だったし、現状は素手で殴るのが現実的だと考えると、どちらかと言えば近接攻撃力を高める
次に
最後に
その後数分悩んだが、結局決めたのは【AGI(敏捷)】を重点的に上げていくことくらいだった。
先の事はその時考えることにして、今は全ての残ポイントを【AGI(敏捷)】に振りきる。
(おー! 体がめちゃくちゃ軽い!! 走れる!!)
やはり魔物の場合、『ステータスが肉体を変質させる』という考えは正しそうだ! というかこんなにも如実に能力が変わるものなんだな。これで、この森の魔物にはほぼ楽勝となっただろう。唯一怖いのは、グール。あの魔物は攻撃力が高く一発もらっただけでも致命傷になりかねない。
『ヴルぅゥぅゥゥ……』
(ん? あれはゾンビ……え? なんで木に噛み付いてるんだ? 腹が減るのは分かるが木は食えないだろ……)
森の中で初めて見た、自分以外のゾンビを観察する。
(いや待て、さっき実感したばかりだろ! 人間の常識にとらわれるな! 言うなれば、あれはゾンビ界の先輩。もしかしたら、何かがあるのかもしれないっ!!)
俺は自分の横にあった大きめの木に目を向け、先輩に倣って思いっきり噛り付いた。
――ガッ! ゴリっ!! バリバリ……むしゃむしゃ……ごくんっ……!
(…………なんも起こらねぇじゃねぇか!!)
まだ木に噛り付いている先輩の後頭部に思いっきり飛び膝蹴りをぶちかますと、レベルが上がった。
詳細を確認していくと……
【スキル】捕食(Lv.1):捕食することでHP回復効果(小)
スキルが増えていた。
(……ゾンビ先輩、ごめんなさい。あなたの事は一生忘れません……)
動かなくなった先輩に一礼し、切り替える。
(よし、レベル上げの続きだ!)
レベルアップをして敏捷値が高くなったことで、走ったり跳んだり蹴ったりできるようになったため、次の魔物を見つけるまでの時間が大幅に短縮された。
(あれは……!!)
ゆっくりとグールがこちらに向かって歩いてきている。
すでに相手には見つかっているようだ。逃げることも考えたが、自分が死んだ瞬間のことを思い出した。
(強くなると決めたんだ! それに逃げ回るのは“好きに生きる”って事じゃない! やってやる!)
近くに落ちていた木の棒を握り構え、向かってきたグールの攻撃を
(倒せるまで何度でも殴ってやんよ!)
避けては殴り、距離をとる戦法を10分ほど繰り返した。
最後は木の棒が折れるのと同時にグールは動かなくなった。
(なんとか……勝てた! レベルは……?)
強敵に勝った興奮を抑えつつ、ステータスを確認するとレベルが10に上がっている。格上を倒すともらえる経験値が多いのは、人間の時と同じようだ。
レベルアップで獲得したポイントを確認していると、突然身体に雷が落ちたような衝撃が走った。
(くっ、なんだ? 今の……!?)
《進化先を選択してください》
・
・
(頭に情報が流れてくる!! ……進化!? 選択!?)
『魔物は姿が大きく変化する事がある』冒険者の間でも当たり前のように言われていた事をすっかり失念していた。そしてこんな感じで進化するのは初めて知った。
(落ちつけ……冷静に考えろ)
レイスは霊体のアンデッドだ。物理攻撃は効かないが、自身も物理攻撃の手段を持ち合わせていない。
グールは筋力や耐久が高いが動きが遅いのが欠点だ。しかし俺の場合は、ステータスポイントを自分で割り振れる。敏捷値を上げれば、弱点はなくなる!
(これはグールだな!)
そう決めると次第に身体が熱を帯び、少しずつ変化が起きていく。
腐って穴が空いていた部分は塞がっていき、爪や牙が長く鋭くなっていくのが分かる。
青白かった肌は墨のように黒くなっていく……。
熱が冷めきると身体が完全に変化していた。
「あー、あー、あいうえおー」
発音もできるようになっていた。
(これで喋ることができる!)
「ステータス!」
<ステータス>
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】喰鬼グール
【状態】空腹
【レベル】10(残9ポイント)
【HP(体力)】400/400
【MP(魔力)】310/310
【STR(筋力)】11
【VIT(耐久)】10
【DEX(器用)】4
【INT(知力)】31
【AGI(敏捷)】22
【LUK(幸運)】35
【称号】—
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・空腹
・捕食(Lv.1)
・体術(Lv.1):体術での攻撃時に相手に与えるダメージと衝撃が強くなる。(効果小)
「種族がグールになってる」
ステータスも全体的に伸びていた。特に【STR(筋力)】と【VIT(耐久)】が上がっている。また、VITが伸びたことによりHPの最大値も大きく増えた。
スキルには体術が追加されており、手や足での攻撃にプラス補正がかかるようだ。
「凄い変化だ……一番デカいのは状態異常の腐敗が消えたことか。臭いのは嫌だったし、喋れるようにもなった。服装をなんとかすれば人間とのコミュニケーションも可能になるかもしれない」
(楽しくなってきた! もっとレベルを上げて、どんどん進化してやる!!)
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