第130話 帝都イブルディア


 飛空艇で空の旅を堪能すること9時間。帝都イブランドに到着する頃にはもう完全に日が落ちている時間だった。空から見る夜景は驚くほど綺麗であり、街中がキラキラと光って見える。


「すげぇ景色だな。いろんなところが光ってるぞ……」


「ん。すごく綺麗」


「こんなん初めて見たっすよ!」


「だな。プレンヌヴェルトに取り入れられることも多そうだし、協議会が始まるまでの数日は偵察を兼ねて街の散策もしてみようか」


「ん。お買い物楽しみ」


「今回は阿吽様やドレイクも一緒ですし、男性陣の普段着などを見に行っても良いかもしれませんね」


「そうだな、私も皆と出かけるのは楽しみだ」


 最近、女性陣は3人でプレンヌヴェルトやレクリアの街に買い物へ行ったりしているらしい。

 シンクも数か月前はキヌやネルフィーに対して一歩引いた立ち位置を取っている事が多かったが、最近は友人のように接するようになってきている。ネルフィーも少しずつ口数は増えているし、明らかに纏っている雰囲気は柔らかくなった。

 今の3人は誰から見ても親友のように見えるだろう。

 そんな会話をしている間に飛空艇は帝都の格納庫へと着陸し、その後は予定通りそのまま飛空艇内にある部屋で泊まることになった。



 翌朝、飛空艇内でルザルクやルナ皇女たちも含めて全員で予定の確認などを行い、昼からは自由時間となった。

 スフィン7ヶ国協議会まであと10日。その会場となるのは城ではなく『帝都会議場』という巨大な建物だ。給仕係であるエルフ達はこの会場設営や食事準備など仕事は多岐にわたるが、俺達は当日までやる事は無い。

その為、せっかくなのでイブランドの街を散策し、買い物などをしつつ怪しい動きが無いかを確認する事となっている。


 街へ繰り出すと、アルト王国とは違った景色が広がっていた。

 王都アルラインと比べても全体的に大きな建物、幅の広い道、街を走っている馬車も王国とは違った技術が使われているようである。街のそこかしこに照明用の魔導具が使用されており、昨晩空から見た光は魔道具によるものであったことを知る。


 武器屋の店内に入ると少しひんやりとした空気が肌に触れる。店員に聞くと、これも魔道具で室温を調整しているとの事だ。このスフィン大陸の中心部分に存在する帝国という巨大な国は、思っていた以上に他国よりも魔道具に関する技術が進歩しているようだ。

 綺麗に並べられた武器を鑑定してみると、全体的にレアリティー青のものが多く、数個ではあるが赤武器まで置いてある。その値段は一般人が到底手を出せるような額ではないが……。

 これらはダンジョン都市ウィスロから出土した武具が流れてきたものだけでなく、イブランドの隣街である鉱山都市ドワールの鍛冶師が制作した物も多いらしい。さらに、この街にもドワーフが経営している大きな鍛冶屋があるとの事だ。

 このあたりはイブルディア帝国の歴史に関係してくるところらしいが、詳しいことは聞かなかった。


 ここに居る全員がイブルディア帝国へ入るのは初めての事で、見慣れぬ景色や賑やかな雰囲気にテンションが上がり、初めて都会に来た田舎者のようになっているのは仕方のないことだろう。

 そんな『和装を着込んでいるハイテンションな亜人5人組』というのは、さまざまな人種が入り乱れる帝都においても非常に目立つらしい。すれ違う人々にガン見されるのには慣れているが、珍しいものを見るような視線は凄く鬱陶うっとうしい。

 まぁ自重する気は全く無いんだけどな。こんなん楽しまなきゃ損だろ?


 それから数日は武具店や鍛冶屋、服屋、雑貨屋など様々な店を巡りながら露店で食べ歩きをしつつ“帝都の偵察”を行った。

 周囲には誤解されるかもしれないが、これはあくまでも“偵察”である。ルザルクに念話で呼び出され、「君たちはどこへ行っても目立たないと気が済まないの?」と真顔で説教されたとしても、毅然きぜんとした態度を崩すわけにはいかない。

 それに、これは『俺達が目立つことで怪しい奴が居たらあっちから寄ってくるだろう作戦』だったのだ。後付けではない……ないったらない!


 ただ、これだけはルザルクに言っておく必要がある。

 

「ごめんなさい。めちゃくちゃ楽しかったです。反省はしてますが、後悔はありません!」


「はぁ……君たちの行動を縛る事ができるって考えた僕がバカだったよ……。散々遊んだ分、当日はしっかり仕事してくれよ?」


 少し老け込んだように見えるルザルクに「任せとけ!」と元気に伝えると、苦笑いと共にお許しを頂けた。

 大丈夫だ、数カ月かけて全員がみっちりと準備してきたんだ。何が起きてもなんとかなるだろ!

 明日はルザルク達に甘いものでもお土産に買ってくることにしよう。


 こうして10日という期間はあっという間に過ぎ去り、いよいよスフィン7ヶ国協議会の開会当日を迎える事になるのだった。

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