第七章 スフィン7ヶ国協議会編
第129話 飛空艇発進
~阿吽視点~
非公式会合から2週間が経過し、今日いよいよイブルディア帝国へ向けて出発する。
この2週間ルザルク達は飛空艇の整備や飛空艇で帝国へ入国する事の申請、スフィン7ヶ国協議会の式次第の作成、会議時のサポートを行う給仕係の選定など大忙しであったようだ。ルナ皇女とレジェンダもこれを手伝っていた為か、3人は少しやつれているらしい。
給仕係に関しては帝国の工作員が紛れ込まないよう特に徹底した選定を行われ、うちのクランのエルフ達15名全員にその依頼が来た。そういった意味でも【星覇】の信用度はかなり高いようだ。
もちろんエルフ達はとびっきりの笑顔と共に二言返事でその依頼を受けてくれた。活躍できる場ができて嬉しいのだろう。それが決まってからは執事長をしているティリオンという男性のエルフが王城の給仕係と綿密な打ち合わせを行っていたと聞いている。
その間、俺は魔晶石への魔力注入をキヌ達に任せ、メアに闇魔法を教えてもらっていた。まだちょっと不慣れではあるが、【影移動】などできる事も増えている。
メアは契約した当初ドレイクとシンクにしか懐いていなかったが、チェリーと共に冒険者として動くようになってからは徐々に他者とのコミュニケーションも取れるようになってきている。これはチェリーの明るく元気な性格に引っ張られているというのも大きいだろう。
まぁ二人とも良い意味でも悪い意味でも魔物的というか、ちょっと変わったヤツ等だ。俺が言うのもおかしなモンだが……
メアとチェリーには、キヌ達が沈黙の遺跡で獲得してきた赤武器2つを渡してある。
ひとつは【バレットナックル】という鋼拳という種類の武器。これは近接戦闘を得意とするチェリーと相性が良いのではないかという話になっている。
二つ目は【
この武器は両手で合計10本もの糸を操作しながら移動や魔法を並行的に行う必要があるため、とにかく頭が混乱するし、少しでも気を抜けば糸が絡まってしまう。だが、メアはこの武器を相当気に入り、途中からは俺への闇魔法講座をそっちのけで練習に明け暮れていた。気に入ってくれたのは単純に嬉しいんだけどな。
そんなこんなで各々ができる限りの準備を行い、現在は王都アルラインの広場に来ている。
というのも、飛空艇の修理を行っていた場所は戦争で破壊された街の一角、瓦礫を撤去した広場に簡易的な屋根を付けただけの場所であるためだ。将来的にはこの飛空艇技術をアルラインでも取り入れる事になっており、この場所にそのまま飛空艇の造船所を建設する予定らしい。
「兄貴、すげーっすよ! あんだけ破壊した魔導飛空戦艇が、たった3か月で新品みたいになってるっす!」
「相当頑張ったみたいだな! にしても、こうやって改めて見るとマジでデカいな……ドレイクはよくこんなモンを5隻も破壊したもんだよ」
「いやぁ、兄貴なら余裕でできるっすよ!」
「俺の場合1隻が限度じゃねぇかな……そうやって考えたら竜化したドレイクはマジで【破壊帝】だよな……」
そんなことを話していると、ルザルクと禅が飛空艇から姿を現した。
「みなさん、そろそろ乗ってください。出発の準備はできてますよ。ちなみに阿吽達が最後です」
「マジか、すぐ行くよ」
飛空艇は全長100m程、中に入るとさらに広く感じる。乗船後10分程すると艇内アナウンスが入った。そろそろ発進するらしい。
若干の揺れの後、地面に引っ張られる感覚を覚える。というかこんなデカいものが空を飛ぶなんて一度見ているにしても、落ちたりしないかちょっと不安になる。
窓の外を見るとアルライン城の尖塔の先が見えるほどの高さだった。すでに結構な高さまで浮いていたようだ。思ったよりも安定しており、艇内に居る分には空を飛んでいるとは思えない程である。
そんなことを考えているうちに飛空艇はグングンと空を進んでいき、あっという間にアルライン城が小さくなっていく。
「阿吽! 飛んでいるぞ! 凄いなコレは!」
ただ一番驚いたのは、普段はクールなネルフィーがめちゃくちゃ興奮している事だ。目を輝かせピョンピョン、キャッキャと飛び跳ねている。
「甲板に出てみたいぞ! ほら、皆で行こう!」
キヌの腕をつかみ子供のようにはしゃいでいる姿は、序列戦前にみんなの輪の中に入れるか心配していたネルフィーとはかけ離れており本当に嬉しく思う。
甲板に出ると雲一つない晴天の空色と草原の緑が見事なコントラストを生みだし、言葉が出てこないほどの絶景が目に飛び込んできた。
これからスフィン7ヶ国協議会や魔族の事を考えなければならないが……今だけはこの平和で綺麗な景色を、大好きな仲間たちと堪能するとしよう。
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