第131話 スフィン7ヶ国協議会開会
スフィン7ヶ国協議会は例年3日間を通して行われる。しかし、今年は諸々の状況を考慮し2日間で全行程を終了できるようなスケジュールがルザルクによって組まれた。これは魔族が襲撃を起こすタイミングを絞る目的が大きい。
ルナ皇女殿下が非公式会合で言っていた通り、こちらの達成目標としては『魔族の打倒もしくは排除』と『皇帝の暗殺』、『協議会の安全な開催』の3点。その上で人員配置を皇帝暗殺班と遊撃班、そして帝都会議場の警護班の3組に分け情報共有を行いながら行動を行う事となった。
まず、皇帝暗殺班はルナ皇女とネルフィーの二人。
帝城から街外への脱出路を出口から侵入し城内へと侵入、皇帝を暗殺するのが達成目標だ。確実性を上げるためにあと1人くらいはこの班に組み込みたかったが、隠密行動が基本となるため少数での構成となった。
遊撃班はドレイクとシンク。こちらは帝都会議場の周囲を監視しつつ、帝城で何かのトラブルが起きた場合に即座に対応するのが役割だ。
次にルザルクは、スフィン7ヶ国協議会の司会進行、レジェンダはそのサポートを行う。
会場内の護衛メンバーは俺、キヌ、禅の3人だ。これに加えて各国の要人を護衛する人員がそれぞれ1~2名付く。ただし魔族
これは他国の立ち位置が不明瞭であることと、他国も魔族に洗脳されている者が居る可能性を考慮してのことだ。
武京国は半鎖国状態であることや、個人の武力が高い者が多くその頂点に君臨している将軍が後れを取ることが考えにくいこと。また、魔族が襲撃してきた際にアルト王国の人員のみでその状況を収束できない可能性も考慮して情報を開示し協力を求めたということらしい。
禅の交渉が上手くいっていなかったら、アルト王国は今回のスフィン7ヶ国協議会への参加を辞退せざるを得なかっただろう。そうなれば、魔族の思う壺になってしまっていたのではないだろうか……。
≪阿吽様、わたくしとドレイクは定位置に到着いたしました≫
≪了解。んじゃ、二人はそのまま周囲の警戒をしておいてくれ≫
≪わかりました≫
遊撃班のシンクとドレイクは定位置に到着したようだ。この情報共有に関しては念話で行えるため、各々が今どういう状況なのかは意思疎通が完璧に取る事ができる。これだけでも魔族と戦う上で有利となりそうだ。
そんなことを考えていると、ネルフィーからも念話が入ってきた。
≪阿吽、こちらネルフィーだ。たった今、脱出路の出口に到着した。これから帝城へ侵入する≫
≪わかった。予定通り魔族の襲撃があったらすぐに連絡する。そのタイミングでターゲットに攻撃を仕掛けてくれ≫
≪わかった。帝城まで行って連絡を待つ≫
≪おう、気をつけてな≫
ネルフィー達もここまでは順調のようだな。
こちらはそろそろ各国の参加者と護衛が会場に到着しだしている。会場警護のために陰から【鑑定眼】を使っているが、今のところ異常はない。
ルザルクはたった今到着した“獣人国ガルン”と“エルフ国シャルラット”の要人に挨拶をしつつ会議の内容などを説明していっている。この辺はさすが王族と言ったところか、外交の能力の高さがうかがえた。会話の節々に腹芸を仕込みつつ、相手の出方や立ち位置を伺い把握していっているようだ。
というか獣人やエルフの国があるのは聞いていたが、実在したことに少し感動している。
序列戦の前までアルト王国は人間至上主義が掲げられていたためこの2国とは折り合いが悪いらしいが、ルザルクなら今後は上手く付き合っていくことだろう。
その後、ぞくぞくと参加者が集まっていき、最後に会場に現れたのは武京国の将軍とその側近であった。
「初めまして。アルト王国第二王子、ルザルク・アルトでございます。先日は急な書状にもかかわらず、丁寧な対応感謝申し上げます」
「うむ。余が武京国将軍、
「いえいえ、将軍様には遠く及びません。今回の会議、どうぞよろしくお願いいたします」
「フハハハ。過度な謙遜は嫌われるぞ? 貴殿は見るからに死線を潜ったであろう胆力を持ち合わせておる。まぁ、手並み拝見させて頂こうか」
俺でも背筋に寒気が走るような強者の雰囲気と余裕……これは鑑定したらバレそうだな。やめておいた方が良いかもしれない……。
「お? お主が阿吽か? それは良い判断だぞ」
「……失礼しました。やはりお分かりになりましたか」
「まぁな。武京では無暗に鑑定されるのを嫌う文化がある。それに鑑定されると違和感で分かっちまう猛者も多いからな。武京に来る際は気を付ける事だ」
「ご助言感謝いたします」
「あぁ。武京はお主のような強者は歓迎する。最高級の和装や腰に着けた太刀からすると、興味はあるんだろ? もし来たいなら、入国できるように余から通達を出しておいてやるぞ」
「ありがとうございます。一度行ってみたいと考えておりました」
「そうか、そうか。なら好きな時に来ると良い! その代わり、何人かと手合わせしてもらうがな? それくらい安いもんだろう?」
「そうですね。喧嘩は嫌いじゃありません」
「フハハハハ! 面白いヤツだな! 楽しみに待っておるぞ」
将軍はそう言うと、笑いながら指定された席の方へと歩みを進めていった。
こりゃ鑑定してたら後ろにいる側近に斬り掛かかられたかもな。この二人は俺と同等以上の武力を持ち合わせているのだろう。鑑定なんかしなくても、会話や雰囲気だけでこの会場内に於いて、他者より一段も二段も高みに居るのが分かった。
まだまだ世界は広いって事だな……こりゃ、武京国へ行くのも楽しみになってきた!
そして、開会の予定時刻を告げる鐘の音が帝都の中心地にある時計塔から響き渡る。
ルザルクは会場内の雰囲気が落ち着いたタイミングを見計らいつつ立ち上がると、堂々とした声色でスフィン7ヶ国協議会の開会を宣言したのだった。
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