第81話 氷竜の試練
~ドレイク視点~
クエレブレ様に背中を押され、氷壁へと入った俺の目の前には、全身が氷で覆われたドラゴンが居た。
『竜人の子よ。そなたは何のために力を求める』
かなり動揺したが、このドラゴンは今のところ敵意を見せている感じはしない。
むしろ穏やかな雰囲気さえ感じる。
「力を求める理由か……上手く説明できないけど、自分の大切な仲間を守るためだ」
『ふむ……もう答えは出ているという事か。それでは質問を変えよう。
そなたは、自分の大切な者が奪われそうになった時、傷つけられそうになった時、迷わず敵を“殺す”事ができるか?』
「それは……わからないけど、多分できると思う」
『……詳しく話してみせよ』
「俺は竜人族の里に居た時、自分こそが最強だと思っていた。そして、その強さこそが自分の誇りでもあった。
……でも里を出て分かったんだ。俺よりも強いヤツはいくらでもいる。そして誇りとは自己満足のためじゃなく、仲間を想う気持ちこそが誇りなんだって。
俺が敵を殺す事を
もちろん敵にだって仲間や家族がいて、敵なりの正義や戦う意味があるってのも何となく分かる。
でも、“相手を殺すことなく自分の仲間を守れる”って思い上がれるほど俺は強くない。
だからこそ自分の大切な人を守れる強さが欲しい。最初の質問の答えにもなるけど、それが俺の覚悟だ」
『そなたは本当に良き仲間を持ったのだろうな。
……よかろう。だが今の質問は、今後どれだけ強くなったとしても自問自答を続けよ。
では、次の試練だ。魔法でこの氷壁を内側から破壊してみせよ』
「わかったっす」
そう言うと氷竜の姿は、今までソコに居たのが幻であったかのように消えていった。
どうも氷竜の試練は段階があるようだ。
そして、氷竜の話し方から推測すると、最初の質問も試練の一つだったのだろう。
次は俺の力を見せろって事なのか?
俺の中で一番破壊力がある魔法といえば【サイクロン】だ。
試しにできるだけ密度を濃くして、全力で魔法を壁に叩きつけるが全く氷壁は変化がない。
「これは相当固いな……」
それから俺は、魔力が枯れて倒れるまで毎日のように全力でサイクロンを撃ち続けるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「だめだ……この方法じゃ何年たってもこの壁は破壊できない」
5日ほどが経過した頃、今の方法では壁を破壊することができない事を認めた。だが、諦めたわけではない。
「今俺が持っている魔法で破壊できないのであれば……作るしかない。
でも魔法を作るってどうやるんだろう……何かを見落としているような……」
そもそも『魔法』って何だ?
大きな枠組みで言えば【スキル】の一部だよな。うん、もっと詳しく考えてみよう。
竜人の姿でも【竜化】でドラゴンになっても使用ができるスキル。
これも間違っていないはずだ……
だが、威力はどうだろうか。
「検証したことなんかなかったけど、もしかしてドラゴン形態の方が威力も高いのか?」
とりあえず思いついた事をやってみる事にした。
結果から言うと、“よく分からない”。
そりゃそうだ。魔法を当てた壁に全く変化がないのだから。
「くそっ! 外に出るのが遅れれば遅れるほど、竜人族の里に危険が及ぶ可能性が高くなっていくのに!」
半ば自暴自棄になりドラゴン状態でブレスを思いっきり壁にぶち当てた。
すると、壁が
「やっべ、ドラゴンブレス使っちまった。魔法って言われたのに……ん?」
あれ? ちょっとまて、ドラゴンブレスって魔法……?
いや、そもそも【スキル】なのか?
物理ダメージって事はない気がする。でも、俺のスキル欄に【ドラゴンブレス】ってのはない。
だが、初めて【竜化】した時からドラゴンブレスは使えていた。
もしかして……俺の知ってるスキルや魔法の概念が間違っていたのか?
そこから2週間はブレスを壁に向かって吐き続けていた。
使うたびにMPは減っていく。俺の考えが間違いじゃなければ、ドラゴンブレスも魔法という
そして、このブレスこそ自分の最大火力であることも確信した。
となれば、これを改良していくしか俺に残された道はない。
「もう少しで何かが分かる気がするんだけどな……
サイクロンをただ混ぜるだけだと広範囲に広がり過ぎて一点に集中させる事ができない。
ウィンドカッターを混ぜるのでは破壊力が足らない。うーん……」
もう全部……混ぜちゃう?
少し投げやりな思考になっていたかもしれない。
しかし、案外悪い案でもないような気がしていた。
「今日はMPを使いすぎてる。明日の朝まで考えを練ってみよう」
それから半日思考錯誤し考え出した結論は、ドラゴンブレスに【サイクロン】と【ウィンドカッター】を混ぜ込むのだが、放つ直前に【ウィンドプレッシャー】でブレスを拡散させず、収束させるように調整することだ。
だが、どうもブレスを放つタイミングが早くなってしまい溜めが難しい。
ただ、これが完璧に決まれば、俺の最大火力となるはずだ。
その後、何度も試行錯誤を繰り返し、徐々にコツが分かるようになってきた。
「タイミングは掴めてきた。だが、MP残量をみると放てるのはあと一発か……
集中だ……ラスト一発、集中して全力を出し切ろう!」
俺は理想通りにブレスを放つために、何度も頭の中で手順を繰り返し考えながら実行に移す。
ブレスを瞬時に放つのではなく、口腔内にそのエネルギーを蓄積。
次に【サイクロン】と【ウィンドカッター】をこのブレスに混ぜ込むよう集中する。
この時、魔法をただ発動するのではなく、その要素である“回転”と“切断”のイメージをブレスに加える事を意識。
最後に拡散・爆発しそうになるエネルギーを【ウィンドプレッシャー】で無理やり抑え込み、さらに指向性を与え、一点へ収束させながら……放つ!
発射されたブレスは、氷壁にぶつかるとその荒れ狂ったエネルギーの塊が暴走するように氷の壁を蹂躙していく。
放ちながらも分かった。これが間違いなく現状出しうる全力、最高火力だ。
その証拠に壁に亀裂が入りだしてきている。
(これならいけるっ!! 割れろぉぉぉぉ!!)
徐々に氷壁全体にヒビが入っていき、ブレスを吐き切ると同時にドーム状に展開された氷壁は粉々に砕け散る。
そして、ガラスのようにバラバラになった氷の破片が、キラキラと光を反射させながら消えていった。
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