第163話 褒賞授与式
~ルザルク第二王子視点~
スフィン7ヶ国協議会が行われたイブルディア帝国から帰ってきた翌日、全ての内容を報告すべく陛下と謁見をさせて頂くことになった。
これはトップシークレットとなっている内容だが、陛下は不治の病に罹っている。表舞台に出る時は化粧をしてごまかす事ができているが、実は相当に顔色も悪くなってきており身体が弱っているのだ。
すでに勘付かれている可能性もあるが、直接的にはこの内容をフェルナンドに伝えられてはいない。陛下の気持ちのすべてを察することはできないが……恐らくこの国の行く末を案じての事なのだろうと勝手に解釈した。
つい半年前。兄である第一王子が王位継承権の第一位を持っており、その派閥に属する貴族たちは私腹を肥やすために裏で相当あくどいことも行っていた。その派閥筆頭であるブライドが魔族と繋がっていたというのは、当時情報を集めていた僕でも全く知らなかったし、知っていたとしても対応ができない……正直暗礁に乗り上げていたとも言えた時期だった。
そんな折に阿吽に出会えたのは本当に運命だったと思える。あの時阿吽たちに出会えなければ、兄と敵対してでも僕が国王になろうという決心が付かなかっただろうし、考えてはいても本格的に動き出す事はできなかっただろう。
今回の魔族襲撃にしてもそうだ。阿吽達の圧倒的な武力と機転がなければ更なる大惨事が引き起こされていたのは明白。それだけではない。イブルディア侵攻にしても、アルト王国がこれだけの被害で済んだのは紛れもなく【星覇】のお陰であると言い切れる。
陛下にスフィン7ヶ国協議会の報告を行いつつも、頭ではそんな事を考えていた。
「――――以上が、スフィン7カ国協議会で起きた全貌であります」
「……そうか。ご苦労だった」
「つきましては、【黒の霹靂】およびその所属クランである【星覇】に対し、褒賞を与える事を検討いただきたく存じます」
「うむ。それに関しては、次期国王である……ルザルク、お前に任せる」
「はっ! 承知いたしました!」
序列戦以降、星覇や黒の霹靂の人気は凄まじい。圧倒的武力を持ち合わせたメンバー達。そしてそれを束ねる阿吽という強烈なカリスマ。それを影から支えるクランメンバー達……。その中でも一介の行商人だったバルバルが貴族に叙爵されたというのも歴史的に見て数えるほどしかない事だ。
そんな【星覇】というクランに民衆が魅了されるのは当然とも言える。となれば、それを最大限活用しない手はない。ここはひとつ、褒賞も兼ねて阿吽達には
(フフッ、阿吽は驚いてくれるだろうか。あー、授与式が楽しみだ)
「ところでルザルクよ、阿吽とはお前にとってどのような男なのだ? あぁ……、これは国王としての質問ではなく、父親としての質問だ。お前の正直な気持ちを聞かせて欲しい」
「……そうですね、一言で表すならば
「ほぅ……。初めてではないか? お前がそう呼ぶ存在は」
「そうですね。阿吽は肝心な場面で私の背中を押し、良い意味で私を変えてくれた男です。……今は頼ってばかりですが、いずれは私が頼られるような存在となりたいと本気で思っております」
「フフフ……そうか。儂も一度話してみたいものだ」
それは久しぶりの親子としての会話。
そして、久しぶりに見た父の笑顔だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「これより褒賞授与式を執り行う」
王族や貴族が集まるここ玉座の間に宰相の言葉が響き渡る。式次第としてはここから褒賞を授与するに至った功績について長々と説明が入ることになる。
チラッと阿吽の方を見ると少しうんざりした顔をしている。こういう場が得意ではないというのは分かっているが、もう少し表情を作って欲しい。
でも、同時に“阿吽だから仕方ないか”とも考えている自分に気づき、少し頬が緩んでしまう。僕もそのカリスマ性に大概毒されてしまっているのかな。
今回の褒賞については
宰相からの経緯説明の後、国王がゆっくりと玉座から立ち上がる。
「此度のスフィン7ヶ国協議会に於ける魔族撃退、誠に見事であった。また、これまでの業績を鑑みて【黒の霹靂】の全員の冒険者ランクを
「「「「「
若干の驚きはあったものの、黒の霹靂全員が言葉を揃える。明らかに驚きを表情に出しているのはドレイク君くらいかな。
だが、出席している周囲の反応はその限りではない。驚愕、唖然、感嘆……実に様々な反応が見られた。それもそのはず、アルト王国に於いて“SSランク冒険者”とはそれほどまでに到達しがたい境地なのだ。
ただ、今回の褒賞授与式はこれだけでは終わらなかった。
「次に、ルザルク・アルト。此度の魔族襲撃に限らずイブルディア帝国の侵攻を事前に察知し、アルト王国の被害を最小限に食い止め、多くの国民の命を救った。またその才覚から、復興・発展作業が続く王国の希望の光となっている。これは紛れもなく“王の資質”と言える。よって、アルト王国王位継承権第一位をルザルク・アルトとし、次期国王に任命することをこの場で宣言する!」
え、えぇっ!? こんな話をされるなんて聞いていない! 今回の褒賞授与は阿吽達だけだと思って油断していた……。
思わず目を見開き、陛下の顔を見るとうっすらと口角を上げている。
「は……、はいっ! アルト王国のため、この身を粉にして邁進いたします!」
(まったく……とんだサプライズだよ、父上)
この時の僕は、少し浮かれていたのかもしれない……。
フェルナンドの目に灯る憎悪と嫉妬、そして決意の感情を見逃してしまっていたのだから――――
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