第164話 SSランク冒険者
~阿吽視点~
「此度のスフィン7ヶ国協議会に於ける魔族撃退、誠に見事であった。また、これまでの業績を鑑みて【黒の霹靂】の全員の冒険者ランクを
「「「「「
SSランク。それはアルト王国内における冒険者の頂点を意味する。
そもそもアルト王国はスフィン大陸のなかでも比較的魔出現する物のランクが低い地域だ。もちろん“危険地帯”と呼ばれるSランクを越える魔物が生息する場所もあるのだが、それはイブルディア帝国との国境の一部になっている『レイヴン峡谷』と呼ばれる深い谷や、東隣の“砂漠国オルディーラ”との国境である『ナクヴァ山脈』の2箇所のみである。
その二つに共通して言えるのは、その周囲に人が住めず、冒険者や軍隊であっても簡単に行くことができないため結果的に放置するしかない場所となっていることだ。ここに入るのは自殺志願者か密入国者くらいのものだろう。
ちなみに、イブルディア帝国のルナ皇女は冒険者の仲間とともに3人でアルト王国への密入国を行ったのだが、その際2人の仲間がルナ皇女を庇い亡くなっている。その悲劇の舞台が『レイヴン渓谷』だった。
また、ダンジョンに於いても俺がプレンヌヴェルトダンジョンのマスターになるまではアルト王国内の最難関ダンジョンはアークキメラがボスを務める『沈黙の遺跡』だった。沈黙の遺跡と言えば森林の奥深くにあり、この国でもほとんど知られていないダンジョンだ。
要するに、アルト王国では冒険者ランクはそもそもSランクが打ち止めであり、SSランクなど歴史的に見ても数名しか現れてはいない。これがアルト王国でSランク冒険者やSランクパーティーがそれなりの数存在している理由らしい。
しかし他国に目を向けてみるとそんな事はない。例えばナクヴァ山脈を越えた先にあるオルディーラ国には、その国土の半分を占める大砂漠やナクヴァ山脈内にSランクオーバーの魔物が生息する場所も存在していると聞いたことがある。
また、イブルディア帝国には『ウィスロダンジョン』という世界最難関ダンジョンが存在し、その中にはSSランクの魔物も出現する可能性も高い。となれば、その魔物を討伐できるパーティーは必然的にSSランクとなってくる。まぁさすがに極少数しかいないだろうが……。
話は逸れたが、アルト王国という国はスフィン大陸の中でも魔物の脅威が少なく非常に住みやすい土地というわけだ。故に冒険者達のレベルもある程度で頭打ちになってしまいやすい。さらに有能で向上心の高い冒険者たちが他国に流れやすいという側面もある。
ちなみにサタナスがイブルディア皇帝を洗脳しアルト王国を最初に狙ったのも、戦力的に見て一番攻め落としやすいと判断したからだろう。
とまぁ、色々と考えを巡らせていると、国王は続けて言葉を発した。
今回の褒賞授与の本番は、ここからだったようだ。
「次に、ルザルク・アルト。此度の魔族襲撃に限らずイブルディア帝国の侵攻を事前に察知し、アルト王国の被害を最小限に食いとどめ、多くの国民の命を救った。またその才覚から、復興・発展作業が続く王国の希望の光となっている。これは紛れもなく“王の資質”と言える。よって、アルト王国王位継承権第一位をルザルク・アルトとし、次期国王に任命することをこの場で宣言する!」
「は……、はいっ! アルト王国のため、この身を粉にして邁進いたします!」
ルザルク、めちゃくちゃ驚いてるな。普段はあんな顔見せないもんだから、思わずニヤけちまったじゃねぇか。
……でも、ようやくここまで来たんだな。本当にルザルクを陛下と呼べる日も遠くないのかもしれない。それにルザルクが国王になれば、この国は間違いなく良い方向へと進むだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
数日後、俺達は久しぶりにレクリアの街に来ていた。
それはSSランクとなったことで冒険者カードの更新が必要になったためだ。
今回の褒賞授与式の内容はアルト王国全土にすぐさま伝達された。これにより、もともとレクリアの街で英雄視されていた俺達の人気がさらに上がったようであり、街に入るとすぐに人だかりができてしまう……。
「うぉぉぉ!! 【黒の霹靂】だ! かっけぇぇ!!」
「阿吽様!! こっち! こっち見てください!!」
「ドレイクゥゥゥ!! お前は俺達の誇りだっ!! また一緒に酒飲もうぜぇぇ!!」
「キ、キヌたん……ハァハァ……」
おぃ! 最後の奴……以前にも居なかったか?? コイツだけはガチで消し炭にする必要が出てきたな……。
ともあれ、今は冒険者ギルドに急がないと人だかりで身動きが取れなくなりそうだ。
ぞくぞくと集まってくる民衆をかき分け、冒険者ギルドの扉を開ける。そして、カウンターに行き見慣れた受付嬢に話しかけると、すぐにギルドマスターの部屋へと通された。
「よぉ英雄! 久しぶりだなぁ!」
「スパルズ、来るのが分かってたんならもうちょっと何とかならなかったのか?」
「ガッハッハ! そうは言っても最近はプレンヌヴェルトの方が賑やかでよぉ! たまにはレクリアで祭りになっても良いだろ?」
「まぁそうだけど、レクリアに来るたびに揉みくちゃにされるのは勘弁だぞ?」
「それも英雄様の仕事だと思って諦めるこったな!」
「……ハァ。んで、新しい冒険者カードはできてるのか?」
「あぁ、できてるぞ! 【黒の霹靂】特別仕様のカードがな!」
そう言って渡された5枚の
「うおぉっ……コレめっちゃカッコいいっす!」
「ん。凄く綺麗」
「だな。ってかこれって……素材は何だ?」
「コイツは黒曜石を切り出して薄く加工した代物だ。もちろん、ちゃんと冒険者カードとしても使えるようにしてある!」
「黒曜石って、火山地帯の極一部からしか取れない石じゃなかったか!? そんな希少な物で造られてんのかよ」
「今回は国王からの御達しでな! 王城の宝物庫にあったものを加工したらしい。間違ってもなくしたり盗まれたりするんじゃねぇぞ?」
「マジックバッグに入れとくからそれは大丈夫だけど……」
それにしても、今回の褒賞授与式やこの冒険者カード。他の冒険者とは待遇が全然違う。
これは本格的に国が俺達を囲いに来てるな。俺達位の実力ともなればウィスロダンジョンに挑む奴が多いためかイブルディアに拠点を移動する可能性も考えてるって事だろう。
まぁ、ウィスロダンジョンには行くつもりだし、俺たちの行動を制限するようなことをルザルクがするとは思えないから良いんだけどな。
「んで? お前さん達はこれからどうするつもりなんだ?」
「うーん、いずれウィスロダンジョンに挑むつもりではあるけど、半年くらいはプレンヌヴェルトの発展工事の手伝いをしながらゆっくりしようと思ってる。こっちにはプレンヌヴェルトダンジョンもあるしな」
本当は“ダンジョンポイントを溜めながら拡張工事をしていく”って意味なんだが、こういう言い方をしておけばプレンヌヴェルトダンジョンに挑んでいると勘違いしてくれるだろう。
「そうか! まぁ時々レクリアにも顔出すようにしてくれや。レクリアの冒険者たちもお前等を見るとモチベーションが上がるみたいだしな」
「あぁ、たまにはこっちにも来るようにするよ。
そう言って窓の外を眺めると、ギルド前から広場にかけて集まっている人だかりが見え、この建物からどうやって抜け出したもんかと頭を抱える事になるのだった。
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