第37話 ドレイクのプライド


~ドレイク視点~


 2か月前、竜人族の里で次期里長を決める闘いが行われ、その決勝戦で俺は兄のファーヴニルと闘った。


「がはっ! クソっ……なんで力が出ねぇんだよ……」


「どうしたドレイク、お前の力はそんなもんじゃないはずだろ」


「てめぇ……何か仕込みやがったな……」


「私はそんな事はしていない。それはお前が未熟だからなのではないか?」


「くっ……」


「……そこまで。ファーヴニルの勝利だ」


 こんな勝負の付き方ってねぇだろ……普段だったらもっとやれるのに……。

俺はまだまだこんなもんじゃねぇ!


「親父……何か力が出ないんだ! 明日もう一回試合させてくれ!」


 試合は序盤、互角の勝負を行えていた。しかし10分ほど経った時から俺の身体に違和感が生まれ始め、後半は防戦一方となってしまった。今までこんな事になったことはない。兄の攻撃で致命的なものを食らったわけでもない。


「里長を決める重要な試合に、やり直しなど行わぬ!! 力が出ないのはお前が未熟者だからだ! 精進が足らぬのだ!!」


「くそっ……」


 俺も試合のやり直しができるなんて本当は思っちゃいない。

 竜人族は、たとえどんな状況でも勝たなければならない。力がなければこの里を治める事はできない。そんなことは知っている。

 次期里長なんか正直なりたいとは思わない。ただ、自分の全力を出せずに終わるのは、許せなかった。

 それに俺は、尊敬する親父に……俺の強さを認めてもらいたかった。


「ファヴ兄! もう一回だ!! まだ俺は戦える!!」


「勝負はついたと言っておる! ……取り押さえろ」


「ガァァァァ!! 離せ! 俺はまだやれる!! 俺はこんなもんじゃねぇ!!」


 それから俺は大暴れをした。やはり全力は出せなかったが、少しでも里のみんなに、兄に、親父に俺の実力はもっと出せるという事を知ってほしかった。


 夢中で暴れていたからか、その先の事は曖昧だが、気付いた時には取り押さえられて檻に入れられた。“神聖な試合にケチを付けて暴れまわった”。それがどれだけ竜人族の中で重罪か、知らないはずもない。


 その2日後、俺に対する処分が決まった。


「ドレイク、お前をこの里から……追放する」


「つ、追放……」


 殺されると思っていた。親父からの情けなのだろうか……。

 真意は分からないが、その時の俺はプライドが勝ってしまった。


 別れの挨拶くらい、もっとあったはずなのに……。


「ッチ、こんな所、俺の方から出ていってやるよ!」


 その後、自分に対しての不甲斐なさや悔しさ、後悔の念が抑えられず、赤の渓谷でもドラゴンの姿で暴れ回った。

 今思えば短慮な思考だった。でも、その時は何かに気持ちをぶつけなければ、自分が壊れてしまいそうだったんだ。そして数日間暴れると、流石に疲れてドラゴンの姿のまま眠ってしまった。


 ……何者かが背中に乗った感覚がした。


「……ほう、ドラゴンか。コイツを試すにはちょうど良さそうだ」


――ザクッ


「ギュォアァァァァ!!!!」


 なんだこれは! 背中が熱い! 誰だコイツ……赤い髪の男……?


『血ガ足リナイ……血ヲ!! 吸ワセロォォォ!!!』


 突然、頭の中に俺のモノではない思考が混ざりこんできた。


 なんだ? 何が起こった!? クソ、負けてたまるかよ!


 それからどれくらい耐えただろうか。

 必死にあらがい続けたが、徐々に身体の自由を奪われだした。

 いつの間にか周囲に赤髪の姿は無い。アイツはいったい誰なんだ……いや、そんな事よりもこの身体をなんとかしないと!


 無我夢中で抵抗を続けたが、身体は森の木々をなぎ倒し、何人かの冒険者を、風魔法で吹き飛ばしていた。その後、どれだけの時間抵抗できていたかは分からない。しかし、ついに体の自由を奪われ、身体はドラゴンのまま空に舞い上がる。そして、視界には大きな街が見えだした。


『ギャーッハッハハ!! ニンゲンだァ!! 血ダぁぁァァ!!!』


 まずい。このままでは俺があの街を壊滅させちまう。嫌だ、そんな事したくない! 怖い、苦しい……だが、もう抵抗できない。

 ……意識も……誰でもいい。止めて、くれ…………


 次に意識が回復してきた時、俺は地面に墜落していた。

 何があったんだ? 誰かが止めてくれたのか……?


 ダメだ。ぼんやりとしか分からない。ただ、誰かが俺を攻撃しているのは分かる。

 バチバチと放電音を鳴らしながら俺を殴りつけ、殴られるたびに身体が痺れ、体力が目減りしていく。こんな強い奴が、里の外に居たなんて知らなかった。

 他の二人も魔法や防御力が凄まじい。しかも連携がしっかりできていて攻撃を的確に捌かれる。

 コイツら、めちゃくちゃ強い……それに、信頼し合っている。


 ……羨ましいな。


 だめだ、もう意識が――――



◇  ◇  ◇  ◇



「ぐ……グフッ、ここは……」


「よう、起きたか? お前はあの黒いドラゴンで間違いないのか?」


「っ、貴様きさま! 何者だ! 俺様を誰だと思ってンゲフゥ!!」


「阿吽様に向かって……貴様とは……クソガキが。今からでも叩き潰してやろうか」


 え? 誰? マジで誰!? なんで蹴られた!?


……そうか、俺は暴走して……コイツらが止めてくれたのか。



◇  ◇  ◇  ◇



 その後、俺は兄貴と従属契約をし、フォレノワールというダンジョンでシンクねぇさんに色々と話を聞いた。

 なぜダンジョンに転移できるのか、ここがどういう場所なのか、アルスとイルスの事や俺達従属者ができる事。

 それだけでなく、兄貴達がどんな大変な道のりを歩き、今の環境を手に入れたのか。兄貴の強さ、キヌねぇさんの優しさ。


 それに、話をしてくれているシンクねぇさんの優しさも分かってきた。実は怖い人じゃない。俺の事を考え、言葉を選んで分かりやすく話をしてくれている。

 それだけでなく、できるだけ俺を一人にしないように、傍に居てくれた。


 俺は……なんて運が良いんだろう。

 こんなにも優しくて、俺の事を大切にしてくれる人たちに囲まれて……。


 これから俺は、この人たちのために生きていこう。

 俺の守れる範囲を広げていこう。

 仲間のために強くなろう。


 この気持ちを……忘れないようにしよう。



 竜人族の里に居た時の俺のプライドは、ちっぽけなものだったと今なら言える。自分の強さを他人に見せつけたい、知らしめたいだけだったんだ。


 でも、この人達に出会って分かった。

 強さとは、誇りプライドとは、仲間を大切にするためにあるのだと。


 今の俺の誇りは……この仲間たちだ!


                              第三章 完

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次話から『第四章 王国クラン対抗武闘大会編』となります。

第四章は36話分あり、物語が本格的に始動していきますので引き続き楽しんで頂けたら嬉しいです♪

明日以降も引き続き毎日2~3話投稿していきます!


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