一六九話
「「「「……」」」」
俺たちは王都フローラの武闘大会の会場へ到着したわけだが、こうして呆然としていることからもわかるように既に多くの参加者で賑わっていて、入口からほとんど動けずにいた。
というか、人の異様な多さについてもそうだが、幅広い層の参加者がいることに驚かされる。
それこそ女性だけを切り取って見ても、巨大な斧を軽々と背負った戦士らしき幼女から、武闘家っぽい筋肉隆々の老婆、鈴のついた大きなリボンが特徴的な杖とローブ姿の狼の亜人までいるんだ。
こうして参加者を眺めてるだけでも飽きが来ないが、エントリーするためにはこのまま突っ立ってるわけにもいかないので、人波に流されないように前へと進み始める。
ん? そういえば、それまで普通に進んでたプリンたちが俺にしがみつきながら歩いてるのでどうしたのかと思ったら、いつの間にか自分が壁のようになっていて周りのやつらを無意識に押しのけていた。
なるほど、俺にくっついていれば怒涛の人波にも流されないってわけか。よくよく考えてみたら、俺のステータスは人間離れしてるからこうなってもおかしくないんだよな。
「――オラオラッ! 有象無象の雑魚ども、どけどけっ! 天下無双の俺さまのお通りだってんだよ、オラアァッ!」
「…………」
なんだ? やたらと勇ましい怒鳴り声が聞こえてくると思ったら、後ろのほうでも人の波をもろともせず、こっちへ向かって歩いてくる牛頭の獣人がいた。2メートルは優に超えていて、手足も丸太のように太くてあの虎野さえも見下ろすレベルのでかさだ。
「だから、そこをどけってんだよ!」
「「「「「ぐわあぁぁっ……!」」」」」
進路にいる参加者たちを根こそぎ弾き飛ばしながら、やつの巨体がどんどん俺のほうへ迫ってくる。絡まれるのも面倒くさそうなので横に避けたら、わざわざこっちのほうに向かってきやがった。おいおい、なんか恨みでもあんのか……。
「オラオラッ! この通り、俺さまの優勝はもう確定してんだからよ、今すぐ全員エントリー取りやめろ! おい、そこのハーレム野郎もだああぁっ――あ……!?」
まもなく牛野郎が問答無用で俺にぶつかってきたわけだが、逆に相手のほうが大きく吹き飛んでしまった。
「うわあああぁぁぁぁっ……!」
牛男がここから大分離れたところで背中から落下し、泡を吹いて失神した様子。なんともお騒がせなやつだ。
「す、すげえ。あのミノタウロスを一発で倒しやがった」
「どんだけー」
「あいつ、格好はかなり変だが普通の体型なのによ!」
「やつは只者じゃねえ!」
「……は、ははっ……」
周りから拍手と称賛の声を浴びるも、俺はただ笑うしかできなかった。別に何もしてないんだけどな。
「さすがはユート。立ってるだけであいつを倒しちゃうなんて、プリン憧れちゃうの……」
「それがしも、このような頼もしい方がいつも側にいればと……あ、今のはどうか聞こえなかったことに……」
「ユートさま……わたくしめにはあなたが眩しすぎます……」
てか、プリンたちが俺に抱き付きながらうっとりと見上げてくるから滅茶苦茶照れ臭いんだが……。
「ぜ、是非、先にエントリーを!」
「あなたこそ優勝候補です!」
「どうぞどうぞっ!」
「え、えぇ……?」
しかも、エントリーの順番待ちをしていた参加者からどんどん席を譲られる始末。さすがにこれは想定外とはいえ、ミノタウロスのおかげで俺はすぐにエントリーを済ませることができたのだった。
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