十三話


「あ、ひゃんっ、なんですかこれっ、もっとしなさいっ、気持ちいいでひゅうぅぅ」


【ダストボックス】内、俺は蛇口やホース等を素材にして『クリエイト』でシャワールームを作ったんだが、ラビも思わず命令するほど喜んでくれてる様子。


 暖かい風を発生させる『ドライ』の魔法で髪もすぐ乾いたし、早速ここから出るとしよう。


「それじゃ、出かけてくるよ、ラビ」


「あ、ひゃい、ユートしゃま、すぐ帰ってきなさい、ひゃんっ」


「ははっ……」


【ダストボックス】から出ると、そこは旧校舎と新校舎を繋ぐ朝陽が射し込む渡り廊下だった。そうだった、昨晩は新校舎のほうへ行くと見せかけてここで離脱したんだったな。


「…………」


 ん?『ワープ』で一気に教室へ行こうかと思ったとき、後ろのほうからを感じて振り返ったが誰もいなかった。


 気のせいか……? いや、今人影が見えたし、やっぱり誰かいる。とても小柄だし女の子みたいだが、一体何者だ?


 追いかけると逃げ出したので、こっちも必死に走ると、その子は急に立ち止まって頭の上に詠唱バーを出した。ちょっ、ぶつかる……!


「「わああぁっ!」」


 女子生徒と衝突したかと思うと、彼女は物凄い勢いで吹っ飛んでいった。俺の並外れたステータスを考えると当然だ。まずい。このままじゃ向こうの壁に激突してしまう。


『ワープ』で飛ぼうと思ったが、詠唱する余裕もないので俺は全速力で駆け出した。攻撃力にはスピードの要素もあるみたいだから追いつけるはず――よし、俺は吹っ飛んだ彼女を抜き去ると、壁の目の前でその体を受け止めた。


「だ、大丈夫か?」


「あ、は、はい……」


「なんか、俺のことじっと見てたみたいだけど、一体どうして?」


「あ、あの、なんだか急に現れたみたいなので、幽霊かと思ってびっくりしちゃって……」


「あぁ、なるほど、それで逃げたのか。でもご覧の通り俺は幽霊じゃないし、気のせいだよ」


「そ、そうなんですね。そ、それでは、私は用事があるのでこの辺で失礼します! わわっ……!?」


「…………」


 彼女は何度も転びかけながら走っていったかと思うと、頭の上に詠唱バーを出して姿を暗ました。俺の『ワープ』みたいなスキルを持ってるんだろうか? なのに幽霊扱いするなんて、おっちょこちょいな子なんだろうな。


 そのあと教室へ着いた俺は、虎野たちの武勇伝を背景にしながら天の声を待つことに。


 連中は何人殺したとか相変わらず物騒な話をしているものの、やはり単細胞すぎて昨夜の件を忘れている様子で、俺のほうには目もくれなかった。


『はぁ、はぁ……し、失礼いたしました……! 生徒の皆さま、今日は武器と防具を配りたいと思いますので、スマートホンの準備をしてください』


「…………」


 今回は装備品を貰えるのか。それにしても天の声の人、息切れしちゃってるな。朝のラジオ体操でもしてきたんだろうか?


「キヒヒッ、如月、没収の時間ですよー」


「没収だポ」


「あっ……」


 いつものように永川にスマホを取り上げられる俺。こいつの仲間のスライムまで、肩の上で嫌らしい顔を浮かべてることから、性格も飼い主に似るらしい。


「ブルーちゃん、僕の真似して偉いでちゅねえ」


「偉いポッ」


 赤ちゃん言葉で語り掛ける永川と、褒められて嬉しそうに飛び跳ねるスライム。はー、ぶん殴りたい。


「畜生、なんで俺だけ……」


「「ププッ……」」


 俺自身、ちょっと棒読みで言ってしまったわけだが、やつらはバカだから不自然だと思わなかったらしくニヤニヤしている。


「「イダッ!?」」


 ここですかさず『タライ』を使うのはお約束だ。さて、今回も例外なく残り物に福があるはずだし、気長に待つとしよう。

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