十二話


「ごちそうさまでしたぁ」


「ごちそうさま。ラビ、ちょっと出かけてくるよ」


『ラージ』化した夕食をラビと分け合ったあと、俺はそう切り出した。散歩がてら、教室にいるであろう不良グループの様子を見るためだ。


「えぇっ!? ユートさま、どこへ行かれるのですか?」


「ちょっと散歩」


「あの、私も行ってもよろしいですか? てか、連れていきなさい!」


「いや、今回は我慢してくれ」


「は、はぁい……」


 ラビは若干不満そうだが仕方ない。彼女は弱いし誘拐でもされたらと思うとな。


「それじゃぁ、ベッドでお待ちしてますねっ」


「ちょっ……」


 ベッドに潜り込んでウィンクしてくるラビ。俺たちはまだ未成年なんだが……。


「「ッ!?」」


 早速【ダストボックス】を出たら、すぐ隣に人がいてびびった。そういやここは男子トイレだし、タイミング次第では遭遇してもおかしくなかった。


「…………」


 教室の様子をそっと覗き込んでみたが、虎野たちの姿はなかった。どこへ行ったんだろうと思った直後、はっとなる。


 そうだ、旧校舎で寝てるって俺が言ったから、そっちへ行ったんじゃないか?


 となると、俺がいないとわかって怒り狂ってる可能性があるな。それは困る。やつらが俺をボコろうとすればその時点で強さがバレてしまうし、我先にと逃げ惑うだろうからつまらなくなる。折角の獲物なんだし、もっと調子に乗ってくれないと楽しみが減るしな。


 そういうわけで俺はを作り出すと、あいつらを探すために旧校舎へ『ワープ』した。


 さて、どこにいるかなと思ったら、やたらと激しい物音が聞こえてきたのですぐにわかった。【隠蔽】で自分の姿を隠すと、そこへ行って様子を窺うことに。お、いるいる……。


「行け、ゴリアス!」


「ウオオオォッ!」


 虎野の命令で3メートルほどあるゴーレムが突進し、山のように積まれた椅子や机がバラバラに砕け散ると、取り巻きたちから拍手と歓声が沸き起こる。


 どうやら連中の仲間の力をここで試してたらしい。影山が飼ってるメドゥーサによるものか、石化した生徒も標的になっていた。


 そのあと虎野が念動拳を披露し、ボーリングの要領で残ったものをことごとく破壊し尽くす。


「……ふむ、まあ俺様とゴリアスの力はこんなものだ。それにしても、如月がいないな」


「いねえなあ。折角ボスの力を見せつけて、ビビらせようと思ってたのによお」


「あいつ、逃げまくりの卑怯者だし、嘘ついたんじゃないの?」


「浅井さんの言う通りなら……クソ優斗のやつ、マジ許せねえな……」


「ヒヒッ。もう、殺っちゃいましょうか? どうせ、いずれは殺るわけですし!」


「…………」


 おいおい、遅かれ早かれ俺を殺すつもりだったのか。まあやっぱりなって感じで驚きはあまりないな。


「むう、嘘をついたという話が本当ならば、命を奪う以外に道はなかろう……」


「あんなキモいの、とっとと殺っちゃおうよ、虎君。でも、うちのにあいつの血を吸わせるのだけはNGね。汚いし」


「それなら、おいらのナイフか、ペットの斧で八つ裂きにしてやるぜ!」


「いいねぇ……今日をクソ優斗の命日にしてやんよ……」


「アヒャヒャッ! 憎き如月を血祭りにできるなんて、最高の一日になりそうです!」


 怒り心頭の様子だが、逆恨みもいいとこだな。よーし、見てろ……。


 俺は【隠蔽】を解除し、虎野たちの前に現れてみせた。


「やあ、みんな、こんなところにいたのか。廊下の隅のほうでひっそりと寝てたんだけど、うるさくて起きちゃったよ……」


「「「「「……」」」」」


 やつらは揃ってぽかんとした顔をしていたが、見る見る顔を赤くしていることから怒りが込み上げてきている様子。今まで隠れていた卑怯者みたいな風潮を作り出すつもりだろうが、そうはいかない。


 そこで俺は、怒りを抑える魔法『クール』を連中に使い、堂々と退場することに。


「こっちじゃ眠れそうにないし、違うところで寝るよ。あんまりバカ騒ぎしないように。それじゃ、おやすみ」


 そのあと、少し経ってから【隠蔽】を使用して虎野たちのところへ戻り、『ディスペル』で『クール』の効果を解除するとともに『レイン』で雨を降らせてやった。


「「「「「うぇっ……!?」」」」」


 いかにも雨漏りしそうな場所なだけに、しばらくはやり場のない怒りで苦しむことになると思うが、単細胞な連中だし一晩経てば落ち着くだろう。

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