一四一話


『適当にプリンたちの相手をするように。わかったか?』


『了解』


 俺は自分の『アバター』に『命令』し、ファグたちのところへ向かう。


 彼らはエルの都の冒険者ギルドへ向かっていて、ラビの知り合いと再会を果たしたところだったが、本物の俺がいない間に会話も終わってそろそろ到着する頃のはずだ。


「「「「「……」」」」」


 ん、妙に静まり返ってると思ったら、盾のフラッグが揺れる建造物の下、ファグたちが困った顔を見合わせていた。


「なんだよ、折角来たのによ……」


「とほほ。骨折り損のくたびれ儲けだったねえ……」


「うむ。高価な毛生え薬を試したあとのわしの気持ちみたいじゃな……」


「キーン、そっちのほうが悲惨だと思うんだけれど……」


「あうあう。でもぉ、ここまでユートさまや皆さんと楽しくお散歩できたからよかったですう」


「モコもそう思うーっ」


「……俺も、そう思う……」


「…………」


 どうやらギルドは休みだったようだ。よく見ると『定休日』と書かれた札がかけられていた。てか、最後に自分の分身がうなずきつつ同調した台詞を発したのが地味に衝撃的だった。


 いや、そういう風に命じたとはいえ、まるで本物の俺が二人いるみたいだからなあ。こうして【隠蔽】状態のまま行ったり来たりできるから楽ではあるが。


「仕方ねえ、今日は各自、適当に遊んで回るか?」


「「「「「賛成っ!」」」」」


 気を取り直したのかファグがニヤリと笑い、みんなもそれに応じた格好だ。


「あ、お弁当、作っておいたので、お昼になったら食べてくださいねぇっ」


「「「「「おぉっ!」」」」」


 ラビが笑顔で弁当を配ったので歓声が上がる。その後、待ち合わせは6時30分に中央広場でということになり、ファグら四人組と俺の分身を含むラビたち三人組がそれぞれ別行動することになった。


 なんだか平和すぎる流れだな。エルの都が安全だからこそできることか。


 ただ、ヒナがこの世界を救ってほしいと言った以上、どこであれ隙が全然ないってわけじゃないんだろうけど。


 さて、俺は自分の分身を含むみんなが遊んでる間に復讐を開始しようかと思ったが、まだまだ時間があるってことで、【伝道師】のスキルレベルを上げるべく【ダストボックス】へと入った。


「あっ……」


 使用するタイミングがよかったのか、三つの箱が捨てられていた。レベルを上げる前に何が入ってるのか確認しなきゃな。


 お、開けてみたら全部スキルの札だった。どんな効果なのか【慧眼】で調べてみよう。


_____________________________


【整理】


 何かを整理したいと思うだけで、使っていないものの種類が整理される。整理したものは整理枠に入り、使用すればいつでも閲覧したり取り出したりできる。


【促進】


 スキルのレベルが少しだけ上がりやすくなる。


【夢踏み】


 他者の夢の中を閲覧、侵入、改変できる。


_____________________________



 なるほど。三つとも目立って強い感じはなかったが、どれも便利で使い勝手がいいように見える。


 そうだな……この際だから散らかった魔法を【整理】するか。


 それと、スキルレベルを上げようと思ってたところだから【促進】は助かる。《スキルコレクター》の称号もあるしレベル上げが捗りそうだ。


【夢踏み】も地味にお仕置きで使えそうだし、中々いいプレゼントだった。こんないいものを捨てたやつらにご馳走様と言いたいところだ。


 俺には【魔法作成】もあるものの、スキルと同じような効果の魔法を作った場合、既に完成されているスキルと効果が被るせいか、上手く作動しない、または発動しないことも多く、魔法では代替できないものが意外と多いみたいだからな。

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