四十話
翌日の朝、俺はファグたちに案内され、村の中央にある冒険者ギルドへと向かっていた。
交わった剣が描かれたフラッグのある建物に入ると、いかにも屈強そうな連中がみんな緊張した様子でこっちのほうを見てるのがわかる。
なんでかと思ったが、そういえばファグたちは全員がS級冒険者だし、冒険者たちから尊敬されててもおかしくないんだよな。
「あ、ファグさま、このたびはなんのご用件でしょうか」
カウンター前、ファグに対して受付嬢が緊張した様子で頭を下げる。
「急ぎの用事だ。今すぐギルマスのグレンを呼んでくれ」
「えっ!? それはつまり、一大事でございますか!?」
「まあ、そんなところだ」
「りょ、了解です!」
「…………」
受付嬢が慌てた様子でカウンターの奥へ走っていく。ん? 一大事って、何かあったっけ……?
「――おう、ファグじゃねえか。どうしたんだ? モンスターの大群でも攻めてきやがったか?」
ほどなくして、片目に縦の傷がある厳つい男が出てきた。ギルドマスターなだけあって風格があるなあ。
「いよっ、グレン。実はな、物凄いやつを仲間にしちまったんだよ、俺たち」
「へ? おいおい、何言ってんだ、ファグ。ここら辺でおめーら以上に物凄いやつなんているわけねえだろ」
「それが、いたんだよ。化け物みたいなやつがな。ここにいる、ユートってやつさ」
「な、なんだと……こんな小僧がか。てか、変な格好してんな……ま、まさか、異世界から来たっていうのか!?」
周囲がざわざわし始めて、俺は痛いほど注目されてるのがわかった。
「ど、どうも。ユートです。俺は別の世界からやってきました」
「そうかあ。確かに格好は変わってるが、そんなに強そうには見えねえけどなあ」
「グレン、失礼だって! ユートはね、あのイモータルモニターの群れを一人で倒しちゃったんだよ!」
「なっ……!? ミ、ミア、おめーまさか寝ぼけてたんじゃねえだろうな? やつらに対しては、強力な罠か氷魔法を使って放置するしか回避する術はねえっていうのに、全部倒しただと……」
「コホンッ。グレンよ、にわかには信じがたいだろうが、わしもこの目で見たから間違いない。あれは、まさに神の所業じゃった。イモータルモニターの集団が氷漬けにされたかと思うと一瞬で消えたのじゃ……」
「おいおい……キーン爺さん、耄碌しちまったのか?」
「し、失敬な、わしはこういう喋り方じゃが、まだ50代だぞい!」
「グレン、あたしも見たから間違いないわ。あんな凄い魔術は見たことないし、ユートが神がかり的な力を持ってるのは確かよ」
「うおっ……他人に厳しいリズまで認めてるってことは、ホンモノだなこりゃ。よし、それならユートをS級冒険者に昇格だ!」
「「「「「おおおぉっ!」」」」」
「えぇ……?」
ファグたちの歓声が上がる中、俺は呆然とする。まだ冒険者ですらなかった自分が、いきなりS級冒険者になるなんて冗談みたいな話だが、たった今実際にその称号を獲得したのがわかった。
《S級冒険者》の効果は威圧感が増し、冒険者たちから尊敬を集めるというもの。まあこれに関しては順当だな。
「ユートにはS級じゃ足りないくらいだが、それ以上の階級はこの辺じゃ設定されてないんだ。なあそうだろ、グレン」
ファグの問いに、ギルドマスターのグレンが腕組みしつつうなずいた。
「そりゃ、S級以上となると人外しか到達できねえし、そもそもそんな人材いねえしな。ただ、イモータルモニターを瞬殺できるってなりゃ話は別だ。リスクは大きいが、そんなにユートがつええならエルの都を目指すってのはどうだ? あそこなら、規模がでけえからそれ以上の階級もあるだろうよ」
「「「「……」」」」
なんだ、ファグたちの顔が見る見る青ざめてる。そんなに危険なところなのか。
「いや、俺は目指すぜ。折角、ユートっていう人類最強の傭兵がいるんだからよ。なあ、お前らもそう思うだろ?」
「う、うん。怖いけど、僕も行ってみたい……!」
「わしも、若い頃はあそこへ行くのを目指したもんじゃが、遂に夢がかなうのか……」
「鳥肌立っちゃったわ。あたしたちがエルの都へ行くだなんて、本当に夢みたいな話ね……」
「…………」
S級冒険者のパーティーが辿り着くことさえ困難なところって、一体どれだけ危険な旅になるんだよと俺は内心突っ込んでいた。しかも自分が行くのが当たり前みたいな流れだし……。まあいっか。
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