三九話
「ユートしゃまぁ……今夜は絶対、逃しませんよおっ……くー……」
「…………」
ラビも元の元気な姿に戻った様子なので、俺は彼女に『クリエイト』で作った人型の枕を抱き付かせ、そっとベッドから出ると『ワープ』を使った。
一瞬で村の入り口まで飛んたものの、あれからかなり時間が経ったらしく、ほとんどの建物から明かりが消えて周囲は真っ暗になっている。
そこで俺はまず新たに『ライティング』という照明用の魔法を作って使用し、ファグたちのいるであろう宿を探すべく『ガイド』の魔法を発動させて矢印の方向へと歩き始めた。
さすがにもうみんな寝ちゃってるだろうなあ……って、あれ? しばらく進むと、一つの宿の看板の前で誰か座っているのが見えた。あ、あれは……そうだ、確かミアっていう僕っ子だ。相当眠いのかウトウトしている。
「――ミア……?」
「……むにゃ……はっ……ユ、ユート!?」
眠そうな目で俺を見上げたミアが、びっくりした表情で起き上がった。
「もしかして、ここで俺のことをずっと待ってくれてた?」
「うん! はあ、よかったあ……」
ミアが感激したのかウルウルしちゃってる。
「そっか。待たせちゃって悪かったなあ、ミア」
ん、ミアが涙を拭って安堵した顔になったと思ったら、一転して怒った様子で頬を膨らませた。
「もー、ホント、遅すぎだよ! 僕、怒ったんだからね! ぷんぷんっ……」
「ゆ、許してくれよ」
「むー……どうしよっかなあ……」
「お願い、ミアさま」
「ミ、ミアさま!? そ、そんなこと言わなくても許したのに……どうしよう、照れちゃう……」
「ははっ……」
今度は照れちゃってるし、なんとも忙しい子だな。
「って、遊んでる場合じゃなかった。ユート、こっち来て! みんな待ってるんだから……!」
「ちょっ……」
はっとした顔になったミアに手を引っ張られ、俺は猛スピードで階段を駆け上がることに。急に速度が上がったからびっくりした。彼女は【支援術師】スキル持ちだしバフをかけられたっぽいな。
「ユートを連れてきたよっ!」
「「「おおおぉぉっ……!」」」
宿の一室に集まっていたファグたちから歓声が上がる。こんな夜更けだっていうのにまだみんな起きてるし、この様子だと俺に逃げられたと思って相当落ち込んでたっぽいな。というか、酒臭っ。空き瓶がファグの周りを中心に幾つも転がってるし、どんだけ飲んでたんだか……。
「ファグ、キーン、リズ、遅れてしまって申し訳なかった。ちょっと、終わらせなきゃいけないことがあって……」
「おう、いいってことよ。俺らは自棄酒してる最中だったが、ユートが帰ってきたし、祝い酒になりそうだなぁ、キーンとリズもそう思うだろ? ふわあ……」
「ういー……うむぅ、まったくじゃ。ユートの帰還で、わしらの勝利は約束されたようなものじゃからのぉー……ひっく……」
「……そうねえ……。一時はどうなることかと思ったけれど、ユートが戻ってきてくれて本当によかったわ……おえっぷ……」
「「「「くー……」」」」
「っ!?」
まもなく、俺の横にいるミアを含めてみんな一斉に寝てしまった。自棄酒しつつも希望を捨てきれなかった感じだろうか。中でも、リーダーのファグはさすがに《酒豪》なだけあって大量に飲んでたっぽい。
なんか、物凄く悪いことをしちゃった気分だ。今度ここを離れるときは、こっちにも『アバター』を置いていかないとな……。
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