一三四話
あのあと、俺は自分の『アバター』を幾つも作って『指導』+『ラージスモール』で一斉に鍛えて【伝道師】をレベル3まで上げたのち、プリンたちの元へと向かった。
新たなテクニックを覚えるためにもうちょっと上げたかったが、続きはまた今度にしよう。
もう夜の十時過ぎだから彼女たちが起きてるかどうかはわからないものの、これ以上待たせたら悪いからだ。
そういうわけで『ワープ』で保健室の前まで行くと、俺はまず『クレアボヤンス』で中を確認してみた。
お、まだ二人とも起きてるなってことで、ノックしてから入る。
「んもう、ユートってばおそすぎなのっ!」
「うあっ」
入った途端、プリンの怒った顔が現れた。
「ま、まあまあ、プリンさま。こうして約束通り、ユートどのに来ていただいたのでありますから」
「むー……ぷいっ」
護衛のホルンがこうして姫をなだめてくれるから本当に助かる。
「遅れて悪かったな、プリン、ホルン。さあ、早速行こうか」
「「了解っ」」
俺は二人を抱えると窓から身を乗り出し、『フライ』を使って一気に飛び上がっていった。
「――着いた……って、あれ、馬車は?」
崖上には馬車らしきものはなかった。まさか、モンスターに襲われてしまったのか。
「ユートどの、そのことならご心配なく」
「ホルン?」
「御者には先に王都へ戻るように言いつけてありますので」
「なるほど……って、それじゃ、徒歩で王都へ!?」
おいおい、馬車でエルの都へ行くのですら、滅茶苦茶時間がかかったのに、徒歩だとどれくらいかかるのか想像もつかないぞ……。
「ウププッ……」
なんだ、プリンが噴き出すように笑い始めた。
「ど、どうしたんだ、プリン?」
「だ、だって……ウププッ……」
「オッホン……ユートどの、それがしが説明いたします。王都はここから近い場所にあるゆえ、馬車は必要ないのであります」
「えっ……」
馬車がいらないほど近くにあるのか。それは意外だった。
「そうだったんだな。じゃあ、歩いていこうか」
「あ、いえ、ユートどの。お待ち下され」
「へ?」
歩き出そうとした俺をホルンが止めてきた。なんだ?
「ここで待っていればいずれ来るかと」
「……え、来るって?」
俺はホルンの言ってることがよくわからなかった。もしかして都がこっちへ来るっていうのか? 冗談かと思ったものの、そういう雰囲気じゃない。
エルの都にはモンスターを感知して消える仕組みがあったが、王都にもそういった便利な機能があるんだろうか?
そういや、ファグたちは王都についてはなんにも話さなかったし、存在すら知らない可能性もあるな……。
ん、ホルンがとある方向を剣の先で指し示した。なんだ?
「ユートどの、まばたきせずにあの方向をよくご覧ください」
「え、ああ――って!?」
なんの変哲もない夜空を言われた通り見ていたときだった。
キラッと光ったのだ。雷? いや、それならしばらくしたら轟音がするはずだしな……。
「今度はあそこを」
「え……」
言われるがまま、剣で示された逆方向を見やると、さっきより近い場所が光ったのがわかった。ただ、よく注意して見てないとわからないレベルのものだ。もし気付いたとしても、遠くで雷が発生したか、建物か松明の光か、あるいは照明魔法かと思う程度だろう。
「もうすぐであります。一歩も動かず、あの光から目を逸らさぬように」
「あ、あぁ……」
最初は遥か遠くにあった光が真上のほうまで来たかと思うと、それを見上げてからまもなく、周辺の視界が急変した。
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