一三五話


「――こ、ここは……」


 光を見つめていたと思ったら、周囲の景色が一転していた。崖上から町のど真ん中に『ワープ』したかのように激変したのだ。


 しかも、周囲には美しい花壇がこれでもかと続いていて、犇めく店舗の照明や街灯、月明かりを浴びて怪しく輝いていた。


「ユートどの、ここが王都フローラであります」


「あー、ホルン、それプリンが言おうと思ってたのにー!」


「も、申し訳ありません、プリンさま……」


「…………」


 なるほど、花の都だからフローラってわけか。そもそも王女のプリンの称号の一つが《フラワーコレクター》だからな。


「プリンがユートに説明するんだから、ホルンは黙っててほしいの!」


「は、はい……」


 プリンの剣幕を前にホルンがたじたじの様子……ん、今度は俺を見上げて何か言いたそうだ。


「ユート、質問したいことがあるならプリンに聞いてっ! 聞きたくないなら別に聞かなくてもいいけどっ。ぷいっ……!」


「聞きたいこと、か……」


 うーん、いざそう言われると困るな……ってそうだ。


「もし、俺たちが都に入ろうとしてるとき、ちょうど目の前にモンスターが現れたらどうなるんだ?」


「そ、それはぁ……えっとぉ……」


「プリンさま……ごにょごにょ……」


「あ、そうだった!」


 ホルンに耳打ちされたプリンの顔がはっとなった。どうやら教えてもらったらしい。


「あのね、ユート。それは、モンスターと人間を区別する仕掛けが王都にあるからだ丈夫なのっ」


「へえ、人間とモンスターを区別できるのか。そりゃ凄いな……」


「ふんっ。もっと褒めてなの!」


「物凄いよ、プリン」


「ああん……。プリン、最高の気分なのぉ……!」


 やっぱりプリンは自分の都だっていう自覚はちゃんとあるんだな。まあそりゃそうか。だからこそクーデターが起きて俺に助けを求めてきたんだし。見た目が子供みたいだがこれでも15歳だから。


「エルの都にも行ったことあるけど、そこは消えるだけだった。こっちは王都なだけあってもっと進んでるんだな」


「あんなの、ただ消えるだけだもん。いつか滅びちゃうかもね。こっちは消えるだけじゃなくて定期的に移動もしてモンスターを遠ざけてるんだからっ」


「しかも、区別もできるしな。それにしても、ホルンは都が光る方向とかよくわかるんだな」


「え、えぇ……?」


「俺なんて、東西南北とかさっぱりだし、移動する都とか普通に戻れる気がしないな」


 そこはやはり異世界人だから、現代人よりも方向感覚がずっと優れてるんだろう。


「も、もしかして、それがしはユートどのに褒められているのでありますか……?」


「あぁ、もちろんだよホルン」


「うっ……」


 なんだ、ホルンの肩に手を置いたらえらく赤面してる。


「何よ、ホルン。なんであなたが褒められてるの!?」


「プ、プリンさま、申し訳ありません。それがしもよくわからなくて……」


「んもう、ずるいの! プリンにも教えてよ!」


「ははっ……」


 ホルンに悪いから話題を変えるか。


「そういえば、普通に歩いて大丈夫? 兵士とかに見つかったらやばいんじゃ?」


「それなら大丈夫かと。王城付近にさえ近寄らなければ」


 聳え立つ城を剣で指すホルン。あれか。ここからだと豆粒みたいでかなり遠くに見える。こんなにも広大なら、兵士を細かく配置してたら戦力ダウンだから得策じゃないんだろう。


 というか、本当に滅茶苦茶広いんだな。あのエルの都が小さく感じるくらいだ……って、プリンが静かだから妙だと思ったら、眠そうにウトウトしていた。そういやもうこんな時間帯だし仕方ないか。


「宿へ行こうか。あ、一番安いところで」


「ユートどの?」


「あ……」


 そうだった。ファグたちと違って、ホルンは貴族でプリンは王族だったんだ。


「手持ちは少ないとはいえ、金貨100枚ほどあるので安い宿でなくとも大丈夫かと」


「…………」


 やはり格が違った。ここは遠慮なくお世話になるとしよう……。

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