一三六話
「――プリンさま、ユートどの、到着いたしました」
「いや、ホルン、ここは宿じゃないと思うが……」
「宿ですが?」
「えっ……」
目が点になるとはこのことか。王室御用達の宿があるということで馬車で向かったら、宮殿みたいなところだったんだ。
「あ、いつもの方々でございますね。金貨50枚となります」
「ご苦労。しかし、今日はやたらと安いな」
「はい。まけておきました」
「…………」
多分、《商人殺し》の俺がいるから安くなったんだろうけど、ホルンの台詞のほうが衝撃的だった。50枚でやたらと安いと言い切ってしまうところが、やはり《伯爵》なだけある。
しかも、プリン王女は眠そうだとはいえ、当たり前のような顔をして中へ入っていった。やっぱり育ちが違うというのはこういうことなんだろう。
こういうのに慣れてない場合、どうしても最初にためらいが入ってしまうもんだからな。
店の人に案内され、分厚い柱に挟まれた真っ赤な絨毯の上を進んでいくと、奥にロビーみたいなところがあると思ったら、なんとそこが俺たちの部屋だと告げられた。
こりゃ凄いな……。【ダストボックス】の中も今では同じくらい広いが、ここは華やかさという意味では別格だった……って、プリンに服の裾を引っ張られた。
「ふわぁ……ユート、プリンと一緒に寝るの……」
「ちょっ……」
誘われるがままベッドに入ったわけだが、水の中に沈み込むような感触とともに俺まで眠ってしまいそうになった。さすが、王族も利用するベッドなだけあってまるで『スリープ』を使ったみたいだな。
「では、ごゆっくりお楽しみください、プリンさま、ユートどの……」
ホルンの声が既に遠く感じる。楽しむって、何をすると思ってるんだよと突っ込みたかったが、意識が混濁していて声すら出なかった。
……そうだな、たまにはぐっすり眠るのもいいかもしれない。ファグたちは【ダストボックス】にいるわけで、時間帯的にも何かあるわけじゃないし。
意識を覚醒させる『アウェイク』の効果もある『エリクシルヒール』を使おうかとも思ったが、それだとふわふわしている感じは拭い切れないので、少しは睡眠をとらないといけないって思ってたんだ。
「――はっ……」
俺はベッドの上で上体を起こすと、周囲を見渡した。いつの間にか周りが明るくなってきてるし、想定以上に眠ってしまってたらしい。柱の中に埋め込まれた時計は朝の5時付近を示していた。
ベッドの居心地がよすぎて寝ちゃってたんだろうな。あと、プリンが覆い被さってたが、体重がやたらと軽いのか全然圧力を感じなかった。
「んん……ユート、きてほしいの……」
「なっ……」
プリンの発言で肝を冷やすが、ただの寝言だった。
中の様子を見るべく【ダストボックス】に入ると、みんなまだ眠ってたが箱が幾つもあるのがわかった。
王都フローラで捨てられたものだろう。どんなものが入ってるか早速開けてみることに。
「こ、これは……」
思わず声が出る。箱の中にはどれも花が入っていたからだ。それも枯れかけのものばかりだった。これじゃ活用できなさそうだしなんとか再生できないものか。
『レイン』じゃダメだったので、『エリクシルヒール』を『ラージスモール』で薄めつつ全体にかけてみたらみんな時間を戻したかのように次々と復活した。
《植物の再生人》という称号も獲得した。所持している植物に癒されやすくなり、長持ちするだけでなく、誰かにプレゼントすると一層喜ばれるらしい。お花見とかすると盛り上がりそうだな。
さて、そろそろファグたちが起きる頃だが、それまで【伝道師】のスキルレベルでも上げておくか……。
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