一三七話


「…………」


 俺は気付けば自然と笑みが浮かんでいた。よしよし、狙い通りだ。


 というのも、『アバター』を幾つも作って『指導』で鍛えていたら、遂に【伝道師】スキルがレベル3から5になり、二つ目のテクニック『命令』を習得できたんだ。


 どんな効果なのか【慧眼】で調べてみると、自分よりスキルレベルの低い人間に対し、色々細かいことを命令して実行させることができるとのこと。


 こりゃいい。これこそ俺が喉から手が出るほど欲しかったものだ。


『コントロール』だと自分で動かさないといけないし、『オーダー』っていう『命令』と似たような魔法を作ったことがあったが、分身が無能すぎたのか途中で倒れたり言うことを守らなかったりだったのですぐ消したんだ。


 なんせ、『アバター』はステータスオールゼロだし色んな意味で耐性が低すぎるのか、魔法を重ねると上手く作用しないことも多い。


《教育者》なんていう称号もついた。これは鍛えてやった相手のステータスがさらに上がるんだとか。


 そうだな……そろそろファグたちが目覚めてプリンたちは夜遅くに就寝したのでまだしばらく休むだろうし、向こうのほうに『アバター』を置いて『命令』してくるか。


【隠蔽】を使って【ダストボックス】を出た俺は、早速分身を作成して『指導』で強化したのち、『テレパシー』で『命令』した。


『プリンたちに起こされたら、少し勿体ぶるように目覚めて、一緒にゆっくり朝食を取ること。そのあと俺を呼んでほしい。わかったら心の中で了解したと答えてくれ』


『了解した』


 おお、ちゃんと返事もしてきたし、これならいけそうだ。分身が喋るとドッペルゲンガーのことを思い出してドキッとするな。


 とにかく、食事をしたあとでプリンたちは何か行動を起こすはずだし、そのときは本体の俺が一緒にいるべきだと思ったんだ。


 ちなみに教室には『指導』してない素の『アバター』を設置しておいた。あそこはもう天の声があったら行くだけでいいしな。そういう感じで、何か起きるまではファグたちと行動をともにしようってことで、俺は【隠蔽】状態のまま【ダストボックス】へと戻った。


 ラビとモコはベッドで抱き合うようにしてお休み中で、ファグたちはその下で雑魚寝してるが、いずれは目覚めることだろう。そしたらさぞかしびっくりするはずだ。


 何故なら、最早ここは【ダストボックス】ではなく、【フラワーボックス】状態だからだ。


 みんなの驚いた顔を見るのが、今から楽しみだなあ……。




「「「「「――ッ……!?」」」」」


 それからほどなくして、ラビとモコ以外起き出してきたんだが、いずれも酷く驚いた様子で咲き誇った花々を見渡していた。


「な、なんなんなんだ、この花園はよ……!?」


「す……すっごく綺麗だよお……!」


「う、うむう。こりゃ見事な咲きっぷりじゃのう……」


「美しいわね。ずっと眺めてたいくらい……」


 これぞ、《植物の再生人》の称号の効果か。みんな驚きよりも感動のほうが上回ってる様子だった。


「むにゃ……なんの騒ぎですぅ……?」


「もひゅうぅ……?」


 お、ラビとモコもようやく起きてきたな。さて、どんな反応をするのやら。


「は、はうう!? お花さんが沢山でしゅううぅっ!」


「わふうぅ! お花が沢山だっ、わーい!」


 思った以上のはしゃぎ様で、ラビは人間化したモコと一緒に跳び回っていた。やっぱり本能に訴えてくるものがあるんだろうか。


 我ながら、いいことをしたなあと思っていると、何やら揉め事が起き始めたようだ。なんだ?


「これはね、きっとユートが《お花畑》の僕のために用意してくれたんだよお!」


「ミア、それって何か根拠あるの? むしろ《お花畑》に縁のないあたしにくれたんじゃないかしら」


「あうう……あ、あのぉ、皆さんをがっかりさせたくはないですがぁ、ユートさまがお嫁さんの私のために用意したと考えるのが普通というかぁ、絶対的な真実だと思いますけどぉ?」


「わふう、ラビお姉さまには悪いけど、モコのためだよー!」


「……モコしゃん、ブラックホール、また見たいでしゅかぁ?」


「ひゃ、ひゃぁぅ……」


「…………」


 今はなんとも登場し辛い空気だな。まあ花々が荒んだ心を癒してくれるはずだし、しばらく放っておけば大丈夫だろう、多分……。

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