六四話
「さー、エルの都まではまだまだ先が長いが、ユート、ミア、キーン、リズ、元気に出発しようぜ!」
「そ、そうしようか」
ファグのテンションは朝っぱらから異様に高い。昨晩あれだけ飲んでたっていうのにな……。
「「「うえっ……」」」
そんな彼とは対照的に、ミア、キーン、リズはぐったりの様子だ。俺が治してやろうかとも思ったが、また喧嘩とかされても困るし大人しいほうが都合がよかった。
「ほら、そこの三人、何やってんだ、置いてくぞ!」
「す、少しくらい待ってよ、ファグ。僕、無理矢理飲まされて二日酔いで頭痛いんだからあ……」
「ま、まったくじゃ。ファグに遅くまで付き合ったせいで、頭痛のあまりわしの頭が今にも爆発しそうじゃよ……」
「あ、あたしもよ。キーンの頭はもう爆発しちゃってるけれど」
「「「「アハハッ!」」」」
「ははっ……あっ……」
笑い声に包まれる中、俺は自分の体に変化が生じるのがわかった。
「「「「ユート?」」」」
「あ、なんでもないんだ。ちょっと眠くてね。ふわあ……」
「ユートって、よく寝るよなあ」
「本当だね。やっぱり、それだけ普段から力をいっぱい使ってるってことかなあ?」
「うむ。寝ることで、あの異常なパワーを充填しとるんじゃろうな」
「じゃあユートは夜も強いってことかしら? なんだかゾクゾクしちゃうわねぇ……」
「……あはは……」
リズの怪しげな視線が超怖い……ってそれどころじゃなかった。俺の分身に何かあったみたいだし、教室へ急がないと。
というわけで、俺は『アバター』を馬車に残して『ワープ』で2年1組の教室へ瞬間移動した。
ん、教室がざわざわしてるし、どうやら天の声があったみたいだな。
『そのとても悪いお知らせというのは、謎のモンスター集団がもう間近に迫っているということ、なのです……』
謎のモンスターたちが、近くまで来ているだって……? 天の声の人でも今まで気付かず、正体すらわからなかったってことは、最初にドラゴンが襲ってきたときみたいに体調が著しく悪いってことなんだろうか?
『どうやら、相手に高い隠蔽能力があるみたいでして……私の力不足で、正体を掴めなくてごめんなさい。今、皆さまに土下座中です……ひっ、黒光りする虫があぁっ――あ、失礼いたしましたっ! と、とにかく、本日の夜頃には来る予定なので、ちゅっ……注意してください! こ、こっちに来ないでっ! きゃああぁっ!』
「……ははっ……」
どうやら虫に好かれちゃったみたいだな。ゴキブリも召喚しちゃったんならしょうがない。
「…………」
それにしても、正体不明のモンスター群が今日の夜に来るとはな、唐突な話だ。
相手が誰だろうと今の自分の力なら大丈夫だとは思うが、妙に気になるのも確かだった。みんな隠れてるってことは、やはり同じ種族で、そういう隠蔽能力を使っているんじゃないかな。
【慧眼】ならわかるかもしれないが、実際にこの目で見ないとどういう連中かはわからないので、そのときに対策を考えればいいんだ。
「「「「「……」」」」」
俺の周りは沈黙する生徒が多いことからも、かなり不穏な空気に包まれている。今度の敵は姿が見えない集団、しかも本日中ってことで、生徒たちに与えるインパクトは相当なものだったらしい。
ちなみに、今日は珍しく反田の姿もあって、教卓の回りをウロウロしながら落ち着きなさいとしきりに訴えていた。いや、まずはお前が落ち着けって。
もう『グラフィティ』の効果は消えてるが、黒板に自分の悪口を書かれたってことで、最近は職員室からちょくちょくこっちの様子を見に来てるっぽい。さて、虎野たちの反応も見ておかないとな。
「ふむ……。今回の敵は見えない相手か。姿を隠すということは永川や如月のようなチキンに違いないし、俺様の敵ではない」
「ボスウ、おいらもそう思うぜえ。今回も、下っ端の仮面の男に泳がせておくのもありかもだなあ」
「あ、それいいね、近藤君。あたしたちはその間に着実に力をつけてるんだし、用が済んだらキモい仮面野郎を始末して、救世主としてどこかのお城に呼ばれるの。素敵じゃない?」
「浅井さん、マジでいいな、その計画。クソ仮面、うざすぎるし……」
「…………」
虎野たちはいつものように虚勢を張っていた上、ありえない夢物語まで語っていた。しかも、永川のことはもうすっかりどうでもよくなっている様子。まあクズ同士の絆なんてこんなものだろう。
モンスターをチキン扱いしてるが、お前たちは最初から隠れてるだろうと思ったところで、実際に『テレパシー』+『ラージスモール』で全員に対して突っ込んでやることにした。
ちなみに、声色も『ヴォイスチェンジ』の魔法を作って使用し、微妙に変えてある。
『チキンだのキモいだの言ってるが、それはてめえらのことだろ。少しは鏡を見て自覚しろ、どうしようもない単細胞ども』
「「「「っ……!?」」」」
虎野たちが顔を真っ赤にして暴れ始めた。ざまあないなあ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます