六五話
「――ププッ……」
「ユートさまぁ?」
「もきゅっ?」
「な、なんでもない……」
【ダストボックス】内で昼食中、俺が飯を噴き出しそうになったことで、ラビとモコが揃って不思議そうな眼差しを向けてくる。
食事に集中したいところだが、こればっかりは仕方ない。『サイレント』で自分の笑い声を封印しきれないほど、思い出し笑いが込み上げてくるんだから。
今から少し前のことだ。虎野たちが暴れ始めてからまもなく、一部のクラスメイトと一触即発のムードになったんだ。
いの一番に教室を飛び出したのはビビりの反田くらいで、露骨に逃げ出す生徒も少なかったし、不良グループの影響力が次第に希薄化し始めているのが容易に窺える。
ほかの生徒の中にも、虎野たちに負けないような有用スキルや仲間を持ち、それでいて着実にレベルを上げたやつらだっているだろうしな。
異世界に来るまでは圧倒的な権力を持っていた虎野たちも、渋々といった様子で引き下がった格好だった。もし本格的に争い合って押されるようなことがあれば、その時点で力関係が逆転していることが露呈しかねないからだ。
やつらがお互いに潰し合うのは俺としては愉快だが、やはり連中は自分の手で仕留めたいし、ひとまず何事もなく収まってくれたのはよかった。
「あ、そうですっ、ユートさま、お話がありますうっ!」
「話……?」
なんだろう、まさかお散歩したいとかじゃないだろうな。たまにはいいかもしれないが、ラビのあの格好は目立ちすぎるんだよな……。
「ここに、謎の食材があるのですが、これはなんなのですかぁ?」
「あっ……」
隠していたもう一つの冷蔵庫をラビが探し当ててしまっていた。
俺はサプライズのために特別な食材を凍結させ、この冷蔵庫の中に入れてさらに布を被せておいたんだが、早くもバレてしまったか。まあ彼女は嗅覚が優れてるしなあ。
「あぅぅ、しかもこれってなんだか、まるで生きてるみたいですよぉ……」
「も、もきゅぅ……」
食材に対して何か異様な空気を感じるのか、ラビとモコが怯えた様子で声を震わせている。
「それだけ活きがいいってことだよ。何か祝うときとかにみんなで食べようと思ってるから、それにだけはまだ手を出さないように」
「は、はぁーい、わかりましたぁー!」
「も、もきゅっ」
「…………」
独特な食材なので本当に美味しいかどうかは不明だが、保存する際に『レジスト』という状態異常への耐性が上がる魔法を作ってかけておいたから新鮮だし、《食料の解放者》という称号があるのでそこそこ味は良くなるはずだ。
ちなみにこの称号、俺が調理するか、あるいは俺のために誰かが調理することでも効果が発揮されるみたいだからとても便利だ。
「そのぉ……ユートさま、もう一つお話が……」
「もう一つのお話?」
「はい……今日は一日中、ずーっと私のものになりなさいっ!」
「もきゅっ!」
……そうだな、たまには――って……。ファグたちのところにいる分身に何か異変が起きたみたいだ。
でも、ラビに悪いしなあ……そうだ。あの方法を使おう。そういうわけで俺は早速ラビの前でひざまずいてやった。
「ははあ、ラビさま、今日はずっと側にいます」
「ひゃ、ひゃうう。嬉しいでひゅううぅ……」
「もひゅうっ……」
「…………」
よし、今だ。俺は『スリープ』でラビとモコを眠らせるとともに、『ドリーム』という魔法を作ってかけてやった。これでしばらくは良い夢を見られるはずだ。さあ、今のうちにベッドまで運んでおこう。
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