六六話
分身がいるところへ飛んだはずが、そこは馬車の中ではなく、鬱蒼とした茂みの中だった。まさか、捨てられたってことはないだろうし、一体、どうして――
「――ぬぁっ……!?」
体が浮き上がるかのような物凄い振動がして、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「「「「ユートッ……!?」」」」
ファグたちの声だ。どうやらなんらかの化け物の出現によって、この辺に隠れてるらしい。
まもなく、ファグたちが怯えた様子で俺の元に駆けつけてきた。
「ユ、ユート、ようやく起きたか」
「ファグ、そんなに慌てて一体どうしたんだ?」
「それが、俺たちは今、とんでもねえモンスターに襲われてて、馬車を下りて茂みに潜伏したところなんだ……!」
「ユート、待ってたよ……! でも、もうダメかも……」
「ありゃ、いくらユートでも厳しい相手じゃろうしな……」
「そうね。ユートなら大丈夫って言いたいところだけど、厳しそうだわ……」
「…………」
早くも諦めムードが漂い始めている。一体どんな化け物が現れたっていうんだ? というか、やたらと暗いので自分たちは大樹のすぐ近くにいるのかと思ったが、違った。これは……足だ。
真上を見上げて、俺は血の気がサーッと引いていった。な、なんてでかさの巨人なんだ……。
3メートルとかそういうレベルじゃない。その十倍クラスだ。『セイフティバリアー』を周囲に展開しつつ、【慧眼】でやつのステータスをチェックしてみることに。
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名前 ギガント
種族 巨人族
HP 999999/999999
MP 4234/4234
攻撃力 7281
防御力 5463
命中力 820
魔法力 4234
所持能力
『物理無効』
『魔法耐性』
『超再生』
ランク 異次元級
__________________________
「…………」
異次元級だと……。これは、神級、未知級についで、三番目の強さだ。
物理攻撃は一切通用せず、魔法攻撃にも耐性がある上、再生までするときたもんだ。
試しに『ラージスモール』で小さくしようとしたが、『魔法耐性』によるものかびくともせず、『ヘルファイヤ』や『ニューエクスプロージョン』を使ってもガンガン『超再生』によるものか、すぐに元に戻ってしまう有様だった。
俺の所持している魔法の中で唯一、消失効果の『バニッシュ』が目に見えて再生し辛いようだったものの、それでも『魔法耐性』のせいで焼け石に水状態。
やつの命中率は低いし俺だけなら戦えると思うが、今のままだとおそらく勝負がつかない。
「とりあえず、みんな一旦馬車に乗ろう」
「「「「え……?」」」」
「いいから早く!」
「「「「了解っ!」」」」
それから、俺は自分たちが乗った馬車ごと【ダストボックス】に放り込んだ。
これにはファグたちを避難させるためというのと、もう一つの目的があった。
「こ、ここは、例の異次元か!?」
「じゃ、じゃあ助かったんだね!」
「そういえば、ユートにはそんな魔法があったのう」
「ここなら安全ね……」
みんなしばらくホッとした様子だったが、まもなくベッドで寝息を立てるラビのほうを見てやはり身構えていた。
「この子の力を借りる」
「もきゅ……? もふぁっ!」
モコを『エリクシルヒール』で起こすと、鳴き声を弾ませながら俺の肩まで駆け上がってきた。
「そ、その動物はなんだ?」
「何それ、かわいー!」
「もしや、非常食、かの……?」
「あら、ベッドで寝てる子と違って、可愛いペットちゃんねえ」
「…………」
異世界の住人であるファグたちも知らないらしい。まあモコは未知級だからなあ。あの異次元級のギガントよりランクが一つ上っていうのは想像できないんじゃないかな。
「モコ、俺にその力を使ってくれ」
「もきゅう!」
言葉がわかるのか、モコがうなずいている。俺はこの子の所持能力『限界突破』に頼ることにしたんだ。
「もひゅうううううぅっ……」
お、モコの毛が逆立ったかと思うと、目が怪しく光った。
「――う……うおおおおおおぉぉっ!」
力が漲ってくるとはこのことだ。攻撃力だけじゃなく、魔法力も上がっているのが手に取るようにわかる。
俺は早速【ダストボックス】を出ると、規格外の巨人ギガントに向かって、素早く攻撃をかわしつつ『バニッシュ』を使ってみた。
「グオオォォォォッ……!?」
よし、いいぞ。『ラージスモール』も上乗せした結果、巨人の体がガンガン消えていくのがわかる。
派手に暴れてはいるが、体が徐々になくなってるので周りに被害が及びにくい。それに、ほかの魔法と比べて消失というのは『超再生』が効き辛いのか、再生するスピードを軽々と凌駕することができ、ギガントはまもなく完全に消え去った。
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