第二章

六三話


「「「「「わははっ!」」」」」


 俺たちは次の村へ到着し、宿の一室で宴会が始まったところだった。


「ユート、はい、あーんして」


「あ、あーん……」


 リズに食べさせてもらう自分はいい身分だ。ただ、夕食は【ダストボックス】で済ませたばかりなので若干苦しいが。


「あーっ、リズったら抜け駆けしてずるーい! ユート、僕もあーんしてあげるっ」


「ちょっ……」


 ミアまで俺の口に食べ物を持ってきて、リズと睨み合いになったもんだからたちまち不穏な空気に包まれてしまった。


「ミア、あなたね、子供なら大人しく引っ込んでなさいよ」


「じゃあ、大人っぽいリズにはキーンがお似合いだよ!」


「はあ……!? キーンって、いくらなんでも老けすぎでしょ!」


「リズよ……わしは一応これでも50代なんじゃが……」


「キーン、こまけえことはいいから、俺たちは飲むぞっ!」


「おう、そうじゃな! 乾杯じゃあっ!」


 ファグとキーンは早くも酒に夢中になっている様子だった。


「――プハーッ、おめーら、もっと飲むぞー!」


「も、もう無理だよお……ひっく……」


「わ、わしも無理じゃぁ……おえっぷ……」


「あ、あたしも……ういー……」


「何言ってんだ! まだまだこれからだろ!」


「…………」


 宴会も佳境に入ってきたが、まだ飲み続ける《酒豪》のファグの前にみんなたじたじの様子。


「……ちょ、ちょっとトイレ……」


「「「いってらー!」」」


 ファグたちには悪いが、もちろん嘘だ。俺は満腹な上に酒を飲めないってこともあり、宿を離れてぶらぶらと村を歩いていたら、ふとあることに気付いた。


 そうだ……この村に捨てられたものとかあるかもしれない。異次元通販を利用できる人自体、石板持ちの金持ちしか無理みたいだし、少ないかもしれないが。


 というわけで【ダストボックス】の中へ入ることに。


「…………」


 ざっと見た感じ、箱はない。この村で捨てられたものはなかったか……って、ラビがいない――?


「――ユートさまっ!」


「うわっ!?」


 後ろからラビに抱き付かれる。


「おいおい、ソファの後ろに隠れてたのか……」


「びっくりさせる作戦ですぅ」


「ははっ……」


 彼女は身体能力が高いだけに驚きも倍増だ。


「そういえば、箱が届きましたよー」


「あ……」


 ラビが箱を持っていた。なんだ、彼女が持ってたのか……って、やたらと小さいが、何が入ってるんだろう?


「もきゅっ」


 開けると鳴き声とともに、もふもふしたものが出てきた。


「あうぅっ、とっても可愛いですぅー」


 太ったネズミ? 耳や尻尾がなくて極小なアザラシのようにも見える。ラビの言うように確かに可愛らしいが、これは一体……? よし、早速【慧眼】で確認してみよう。


_______________



 名前 モコ

 種族 モフモフ族


 HP  50/50

 MP 100/100


 攻撃力   7

 防御力  30

 命中力  15

 魔法力 100


 所持能力

『限界突破』


 ランク 未知級


_______________


「…………」


 平凡なステータスだと思ったが、所持能力の『限界突破』と、ランクの未知級ってのが気になった。


 これは一日一回一分限定で、相手の潜在能力を限界まで引き出して超人化するというものらしい。可愛い見た目と反して物凄い能力だ。


 あと、未知級って、確か十段階のうちの九段階目じゃなかったっけ……?


 こりゃ、相当な可能性を秘めてそうだな。なんでこんな凄いのが捨てられたんだろう? レアだと思って購入したものの、ただのネズミと思われたのか、あるいは未知級ってことで怖くなったのか。


 色々不明なところだらけで俺も恐ろしくなってきたな。どうしようか……。


「わふう、ふわふわでしゅうぅ、あっ、待って!」


「もきゅううっ」


「うあっ?」


 まるで俺の気持ちを読んだみたいに、モコがラビの手をすり抜けてこっちの肩に駆け上がってきたかと思うと頬ずりしてきた。


 ちょっとくすぐったいが、こりゃいい。もふもふだし、ほんのりと体温を感じるのがまたいいんだ。そうだな……大人しいみたいだし、ペットとしてここに置いても大丈夫だろう。


「ラビ一人だと退屈だろうし、この子はここに置いていくよ」


「はうう、嬉しいですう。でも、私はユートさまと一緒にいるのが一番幸せです。なので、ずっと側にいなさいっ」


「ははあ」


「もきゃあっ」


 モコがひざまずいた俺の真似をしてる。中々賢いもふもふだな……。

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