六二話
『救世主候補の皆さまにお知らせしますっ! いいですかぁー? 悪いことをしたら、相応の報いを受けてしまいます。なので、絶対に酷いことをするのはやめましょうね! また何かあったらお知らせ……は……はっくしょんっ! あーもう……』
「……ありゃ……」
薄暗くなりつつある教室にくしゃみの音が響く。天の声の人、なんかえらく興奮してたっぽいな。
今のところ、ファグたちのほうにはなんら異変もなく、平穏に過ごすことができている。
さて、【ダストボックス】に戻って夕食を取る前に虎野たちの様子を見ておくとしようか。今日はこれがメインディッシュみたいなもんだ。
「ふむ……天の声の主め、酷いことをするなだと? まさか俺様への当てつけか」
「ボスウ、きっと救世主の有力候補だから、やんわりとお願いしてるんじゃねえ? おいらたちを選ぶのは確定として、周りの目もあるだろうしよお」
「ふん、くだらん。俺様にとって、弱い上に逆らうやつを殺すことは呼吸するのと同じだからだ。救世主として迎えたいならば、多少の悪行は見逃してもらわねばな」
「虎君、超かっこいいー、濡れるぅー!」
「……ちぇっ」
「ん? おい影山、今なんで舌打ちした?」
「……あ、わ、わりー、ボス。永川のやつが来てねえと思って、つい……」
「…………」
いつものように不快な会話をしてると思ったら、影山の台詞で流れが変わった。こいつ、前々から思ってたが浅井六花に気があるっぽいな。まあ確かに顔はいいほうだと思うが、あんな性悪女のどこがいいのやら。
「ふむ。そういえば確かにやつの姿を見ないな……」
「ボスゥ、あの野郎、今頃どっかで遊んでるんじゃね? 最近調子に乗ってたっぽいし、そろそろおいらが立場ってもんをわからせてやろうって思ってたのによお……」
近藤が白目を剥き、取り出したナイフをペロリと舐める。以前はこういうことをされると凄く怖かったが、今だとただの間抜けに見えるな。
「あたしもね、永川君って笑い方とかちょっとキモッって思ってたとこ。見つけたらシメちゃいましょ。殺しちゃってもいーよ」
「俺もその意見に賛成するぜ、浅井さん……」
まあ、もう永川に関してはいくら探したところで永遠に見つからないんだけどな。ただ、俺だけはその居場所を知っている。
灯台下暗しってやつで、やつはすぐ近くにいるんだ。そう……つまり、俺の座っている椅子こそが永川清そのものなんだ。
『マテリアルチェンジ』という魔法を作り、永川を自分専用の椅子に変えてやったってわけだ。
喋ることも動くこともできず、ただ生きているだけという惨めな存在。
一生苦しむんだ。誰にも気づかれることもなく。当然だが、椅子だから喋れないどころか聞こえないし、何も見えない。こいつにできることがあるとしたら、思考することと、座られることで重みを感じることだけだ。
(……タスケテ……ダレカ、タスケテ……)
『テレパシー』で永川の心の声を聞くのも忘れない。
安心しろ、永川。一生大事にしてやるよ。生きているだけに仄かに温かみがある椅子だし、座り心地もまあまあだからな。
永遠の孤独の中で、永川はいずれ考えることさえやめてしまうだろう。それこそが俺の復讐だ。
俺は内心ほくそ笑みつつ、虎野たちをチラッと一瞥した。やつらに警戒されないよう、二人目の処刑まで少しだけ間隔を置くつもりではいるが、高揚感が手伝ってか、今すぐにでも屠りたい気分だ。
永川の次のターゲットは誰かなあ。実に楽しみだ。俺の本当の戦いはこれから始まるといっても過言じゃないだろう……。
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