六一話


「如月が仮面の英雄……?」


「如月が仮面の英雄ポ……?」


「あぁ、そうだ。驚いたか――?」


「「――ブヒャヒャヒャヒャッ……!」」


 俺の告白を聞いた永川とスライムは、涙目になりながら笑い転げた。


「……ヒ、ヒヒッ! こ、これは、傑作すぎて、笑い死にそうです……アヒッ、如月が仮面の英雄……ププッ……!」


「ポ、ポポッ……お、可笑しいポッ、笑いすぎて死にそうだポッ……!」


「…………」


 これでもかと爆笑する永川たちに対し、俺は『レイン』『タライ』『バナナ』『ダスト』のクアドラプルコンボを決め手やった。


「「ぶぇっ!?」」


 よし。久々だったこともあって、もろに決まった。


「油断したな? 実はな、今までこれをやってたのは俺なんだ」


「ごほっ、ごほっ……な、何バカなことを……! そんなしょうもない嘘、一体この世の誰が信じるというんですかっ!」


「ボホッ、ボホッ……ま、真っ赤な嘘だポッ!」


「嘘だって? じゃあ、ほかに誰がいるっていうんだよ?」


「「……」」


 永川とスライムが考え込んだ様子で黙り込むも、しばらくしてはっとした顔になった。


「つ、つまり、ここに姿を隠した協力者がいるってことですか、如月っ!?」


「いるのかポ……?」


「…………」


 なるほど、まあそう思うのが普通か。


 なんせ、俺のスキルは【ダストボックス】だけだと思ってるはずだし、普段から【隠蔽】でそういう風に見せかけてるわけだからな。


 ただもう、ここまで来たら隠す必要は一切ないので、俺は首を横に振ってみせた。


「協力者? そんなものはいない。現実を見ろ。ここにいるのは俺とお前たちだけだ」


「「……」」


 永川とスライムが困惑した顔を見合わせる。そろそろ気付き始めたようだな。さあ、次はどう出る?


「ちょ、ちょっと、タンマ、待ってください、如月。ぼ、僕は用事があるから、この辺で失礼させてもらいますよっ……!」


「し、失礼するポッ……!」


 そうか、そう来たか。用事があると見せかけて援軍を呼ぶか、あるいは逃げようって魂胆だろうが、甘すぎる。


「「っ!?」」


 やつらは扉から出ようとしたが、俺が『インヴィジブルウォール』を張っているので出られず、体当たりまで始めたものの、ほどなくして疲弊した様子で座り込んだ。


「「ハァ、ハァ……」」


「どうした? 永川、それにスライム、そんなに必死になって。もしかして、逃げられないのかな――?」


「――隙ありですよっ! 死ねえぇっ、如月いぃぃぃっ!」


「死ねポッ!」


「はっ……!?」


 永川が髑髏のついた杖を掲げた途端、四角形の水の塊が出現し、俺の体を覆い尽くす。


「アヒャヒャッ! 如月、これは普通の水などではありませんよ! 身動きができないほどの圧力を誇る魔法『ウォーターボックス』であり、あとはこの中で窒息死するのみっ!」


「ごぽっ……」


 俺は魔法の水の中で一切動けなくなっていた。確かに、このままじゃ窒息死するのみだ。


「ふっ……勝ちましたあぁぁっ! アヒャッ! クソ雑魚相手とはいえ、超気持ちイイイイィィッ……フウゥゥーッ!」


「勝ったポッ! 永川さまは最強だポッ!」


「ウヒャヒャッ! ですが、ブルーちゃん。雑魚を始末したとはいえ、協力者がいるはずなので油断は禁物ですよ。聞こえますかっ!? もしいるなら、今すぐ出てきて僕の味方になれば、特別に許してあげます――」


「――誰が許してやるって?」


「え……?」


 永川の背後に現れたのは俺自身だ。『ワープ』で移動しただけだが。


「き……き、如月イイィッ!? ききっ、貴様は死んだはずでは……」


「それより、をいただいたよ」


 俺は没収したスライムを見せつけてやった。


「な、永川さま、助けてポ……」


「ブ、ブルーちゃん!?  き、如月いぃぃっ! 貴様みたいな雑魚が触れていいもんじゃないんですよ!」


「そうか。じゃあ返すよ。あ、その前に


「えっ――?」


「――プ……ブギイイィィィッ……!?」


 俺はおにぎりを作るような感覚で、スライムを少しずつ圧縮してやった。


「ほれ、コンパクトだ……って、あれ? もうすぐ死にそうだ、すまん」


「……ポ、ポォ……」


「あ……あああああぁぁあぁあああああっ!」


「ん、どうした? あ、死んだのか。でも、没収してもほとんど返却しないお前よりは遥かに良心的だろ、なあ、永川」


「ひっく……ごっ、ごろじでやるううぅっ――って、あ、あれぇ……僕の魔法が出ない……?」


「もうやめとけ。あんなしょぼい魔法、いくら食らっても死なないから無駄なだけだ。ぬか喜びさせるためにあえて『ディスペル』をかけなかったってだけでな」


「しょ、しょんな……じゃ、じゃあ、本当に如月が仮面の英雄……?」


「あぁ、そうだ。永川……今までよくもやってくれたな……」


 俺が両手を合わせて指を鳴らすと、永川の顔が可哀想なほど青くなっていった。


「……ぼ、ぼぼぼっ、僕は、虎野さんたちに命令されて、仕方なくいじめてただけなんですよ、ほ、ほほっ、本当なんです……」


「本当か?」


 ここで嘘をつけない魔法『コンフェッション』をかけるのを忘れない。


「いいえ、もちろん嘘です。とても楽しかったですし、自分が標的にされないために如月を積極的にいじめてました……あるぇ?」


「やはりな……」


「……あ、あ、あ、なんで……。あ、あの、如月さま、なんでもしますので、どうか、許してください……」


「許すかボケッ!」


「ぼぎゃっ! むぎゅっ!? あぎっ……あんぎゃああぁぁぁっ!」


 手加減しつつ永川をボコボコにして、死にそうになったら回復してさらにボコる。この繰り返しだ。このまま死なせたら勿体ない。


「――ヒュー、コヒュー……ア、アヒィッ……いっ、命らけは、だじゅげ、で……」


「情けないやつだな。命さえ助かるならそれでいいのか?」


「……も、もぢろんでじゅ……」


「よーし。じゃあ、命だけは助けてやろう。


「うぇっ……?」

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