六十話


「…………」


 俺が【隠蔽】で隠れつつ、『アバター』を『コントロール』しながら旧校舎の廊下を歩いていると、夕陽が射し込んできた。


 そうか、もうこんな時間帯なのか。永川とペットのスライムもそうだと思うが、俺も夢中になってたせいか気付かなかった。


 まるでやつらの行く末を暗示しているようで愉快だが、ここで油断は禁物だ。


 俺は念のため、『ループ』という道が延々と続く魔法を新たに作ると、新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下にかけておいた。


 これなら不良グループに邪魔をされることもないし、散々歩き続けたあとで異変に気付いて突破したとしても、復讐はとっくに終わってるので時すでに遅しってやつだ。


 突き当りの教室前、俺は『アバター』に注意深く周囲を窺わせたのち、素早く中へ入らせるとともに消去した。


 それからまもなく、隣の教室で隠れていた永川とスライムが姿を現し、こっちの教室へ駆け込んでくる。


「如月っ! 貴様がここにいるのはわかってますから、今すぐ出てくるんですよっ! イヒヒッ!」


「出てくるんだポッ!」


「…………」


 永川とスライムのブルーが得意顔で声を張り上げる。もうここまで来れば俺に逃げられる心配もないと判断したんだろう。


 それはこっちの台詞なんだよなあ。俺は『インヴィジブルウォール』という見えない壁が出現する魔法を作成し、周囲に展開した。


 古い校舎の教室なだけに、普通に鍵をかけても逃げようと体当たりされたら壁を破られるからだ。これなら、よっぽど凄い能力の持ち主でなければこれを破ることは不可能だろう。


「黙ってやり過ごそうとしても無駄ですよ、如月っ! 貴様が大事な秘密を隠してるのはバレバレなんですからっ! 直ちにそれを持って姿を見せることです! 今なら、僕が没収するだけで許してあげますっ。アヒャヒャヒャッ!」


「今なら許してやるポッ!」


 嘘ばっかりつきやがって。没収したらすぐに虎野たちに報告するくせに。実際、以前もこいつには似たようなことをされたからなあ。


 永川清……こいつは元々自分と同じようないじめられっ子で大人しいやつだったが、虎野たちのパシリになってから性格が変わり始め、率先して俺をいじめるようになって出世した。


 高級な万年筆をこいつに没収された上に虎野たちにチクられ、俺がこんなのを持っていたのは生意気だってことで顔の形が変わるくらいボコられたことがある。あのときはさすがに死ぬかと思った。


「如月っ! 出てこないつもりなら、無理矢理探して引きずり出し、逆らったことをボスに報告しますが、それでもいいんですかねっ!?」


「いいのかポッ!?」


「…………」


 そろそろいいだろう。俺は投げ出された机や椅子の後ろまで行くと、【隠蔽】を解除して永川の前に登場した。


「……こ、ここだよ。俺は……」


「アヒャッ、ようやく出てきましたか、如月っ。早く僕に秘密を教えるんですよ! そしたら、特別にボスに報告するのだけはやめておいてあげます」


「やめてやるポッ」


「……ほ、本当に……?」


 俺が怯えたように小声で言うと、永川とスライムはニタリと笑った。


「イヒヒッ、本当ですよ」


「本当だポ」


「……じゃあ、教えてやるよ。俺のを……」


 俺はそう宣言するとともに、例の仮面を被ってみせた。


「「なっ……!?」」


 永川とスライムの目がこの上なく見開かれる。そりゃ当然だろう。いじめられっ子から《仮面の英雄》になったわけで、これほどの緩急の差はないと断言してもいい変わりようだからだ……。

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