五九話


「ふわあ……まだ眠いから、しばらく仮眠させてもらうよ」


「「「「了解っ!」」」」


 エルの都を目指して、俺たちは再び馬車で出発したわけだが、もちろん俺自身は仮眠すると見せかけ、『アバター』を置いて学校へ『ワープ』することに。


 分身に何か異変があればすぐファグたちの元へ戻るつもりだし、『セーフティバリアー』も張ってるから大丈夫だろう。


「…………」


【隠蔽】スキルで隠れつつ、密かに2年1組の教室を覗き込んでみると、なんとも楽し気に会話する不良グループどもの姿があった。


 オークデビルの大群を殲滅したばかりということもあって、一様にリラックスムードなのがわかる。そのうちの一人、今回のターゲットの永川のステータスを久々に確認してみよう。

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 名前 永川 清


 HP  74/74

 MP 310/310


 攻撃力  15

 防御力  45

 命中力  27

 魔法力 310


 所持スキル

【魔術師】レベル5


 所持魔法

『ウォーターフォール』『ウォーターボックス』


 所持装備

 スカルロッド

 ウィザードマント


 称号

《没収魔》《逃げ撃ち野郎》


__________________________


 へえ……。虎野たちと一緒に暴れたおかげなのか、レベルを5まで上げていた。称号の《没収魔》《逃げ撃ち野郎》っていうのが、いかにも卑怯者の永川らしい……お、スライムと何やら会話してるから聞いてみるか。


「ブルーちゃん、この世で最も賢いのは誰でちゅか~?」


「それは……永川さまだポッ!」


「ブルーちゃんは偉いでちゅね~」


「偉いポッ!」


「それじゃあ、この世で最も底辺なのは誰でちゅか?」


「それは……如月優斗だポォッ!」


「その通りっ! ブルーちゃんは低能の如月と違って覚えが早いでちゅね~! アヒャヒャッ!」


「…………」


 言ってくれるじゃないか。これからやって来る悲劇的な運命も知らずに。なので、いつもの『レイン』『タライ』『ダスト』といった脊髄反射的なお仕置きはやめておいた。


 俺はまず、自分の『アバター』を『コントロール』で遠隔操作し、目立たせるためにキョロキョロと挙動不審な動きをさせたあと、教室から退場させた。


 これも、パシリの永川を誘き出すための作戦だ。問題は餌に食いついてくれるかどうかだが……お、来た来た。早速、やつが頭の上にスライムを乗せてニヤニヤしながら後をつけてきたのだ。


 虎野たちがついてくるとまずいが、やつらは永川の報告を待つために動かないはず。


 ……よし、教室から誰かが出て来る気配はまったくないし、今のところ至って順調だ。


 俺は一応、自分の『アバター』を立ち止まらせるとともに振り返らせ、警戒する素振りも忘れない。ここまでしないと、これが誘き出すためのトラップだってことがバレるかもしれないからな。


「――――ッ!?」


 すると永川とスライムはびっくりした顔で隠れてみせたが、あんな緩い反応速度じゃ追ってきてるのがバレバレだ。とにかく、これでますます俺がどこで何をするのか興味を持つだろう。


『アバター』には何事もなかったかのように、そのまま旧校舎のほうへと向かわせることにした。それを見て永川は安堵したような表情をしたあと、スライムと薄気味の悪い笑みを浮かべ合った。いいぞ、その調子だ。もっと図に乗れ。


 俺の秘密を暴き出して、それを虎野たちに報告してさらにいじめてやろうっていう魂胆だろう。


 ひっそりとした旧校舎の、それも隅のほうの教室へと移動していく俺の『アバター』を、永川とスライムは夢中になって追いかけてきていた。


 最早ここまで来れば、俺の張り巡らせた蜘蛛の巣にかかったも同然だ。もうすぐ、地獄を見せてやる……。

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