一七三話


 正直なところ、この世界に来るまでは学校なんか潰れてしまえっていう気持ちもあったが今は違う。


 これからも異世界のモンスター群を引き付けるために残しておきたいし、自分の復讐の舞台や対象を失いたくはない。それに、消火作業を手伝ってくれた生徒もいたわけで、悪いやつばかりでもないしな……。


 ただ、このままだと難攻不落のマウンテンゴーレムによって、いずれ近いうちに学校が潰されてしまうのは確実な状況。


 それでも、俺には『アンサー』の魔法という最期の手段が残されている。これでもダメなら仕方ない。回答が暗号みたいだからわかり辛いときもあるが、それでも慣れてるから多分大丈夫だ。


(マウンテンゴーレムはどうやって倒せる?)


 さあ、教えてくれ。超大型ゴーレムを倒す方法を――俺たちの学校を救う手立てを……。


(インポッシブル)


「うぇっ……?」


 自分の口から思わず素っ頓狂な声が出るのも当然な回答だった。


 確か、インポッシブルってのは不可能って意味だったはず。つまり、マウンテンゴーレムを倒す方法はありませんってことかよ。


 おいおい、この回答、いくらなんでもふざけすぎだろ。一体どうすれば……やっぱり学校のみんなに避難するように言うしかないのか? でも、それじゃどう考えても間に合わない上、混乱を引き起こすだけだ。


 畜生、どうすりゃいいんだ……。こうしている間にもゴーレムは着実に前進し、学校へと近づいている――


「――あ……」


 俺はそこではっとする。この膠着状態を打開できる手段が遂に見つかったからだ。


 そうだ……マウンテンゴーレムは前にしか進んでいない。それはつまり、自力で向きを変えられないため、前方にしか進めないということ。なので、なんとかしてやつの進路を妨害すればいいんだ。やつが向きを変えようと思っても変えられないならそれも容易いはず。


 そもそも、この答えが今まで浮かばなかったのは、あいつが飛行型モンスターに『擬態』していたからだ。その形態で向きを変えられないなんて発想が浮かぶわけもないしな。


 しかし、やつは自由自在に飛べる鳥のように見せかけていただけであって、実際は今の今までずっと岩山として直進していて、これが攻略のヒントだったってわけだ。


 そう考えると、『アンサー』の回答で倒す方法がないって出たのもヒントになっていたように思う。倒す以外のやり方を発見しろってことだしな。とにかく、これならいけるぞ。


 そういうわけで、俺はまず『スコップ』という新しい魔法を作り、やつの進路方向に大きな穴を掘ることに。


 超がつく巨体が近付いてきたこともあって、『ラージスモール』で強度を上げてどんどん掘削していく。


 いいぞ、とんでもない規模の落とし穴が出来た。やつはこれを飛び越えることもできず、落ちるしかないってわけだ。さあどうする? 鳥に『擬態』したとしても、それはフェイクだから落下は免れないはずだ。


「――ウゴゴオオォッ……!?」


 よし、ゴーレムが大穴に落下していった。これで安心だ。あとは埋めるだけ……って、あれ? 地面が見る見るせり上がっていったかと思うと、ゴーレムが地中から現れて岩山を形成していった。こ、これはまさか、落ちたあと周りの土を『吸収』して再生したってことなのか……。


 さすがに一筋縄じゃいかないか。それならばと、俺は移動するのを諦めさせるべく、『インヴィジブルウォール』を『ラージスモール』で強化してやつの前に置くことに。


『擬態』があるとはいえ、普通のモンスターに比べると頭の回転が速いようには見えない。よってこのまま動けなければ、やつはいずれ進撃することを諦めて動かなくなるんじゃないかと見たんだ。周囲の大地と同化して、本当の意味での山になってくれることを願うだけだ……。

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