一七二話


 超大型モンスターとやらが迫りくる中、これ以上学校に近付く前になんとかするべく、俺は教室の前の廊下から『フライ』で飛び上がり、さらに『ガイド』を使って矢印を出して、急いで敵のいる場所を目指すことに。


「…………」


 空はこの上なく曇っていて、なんとも不吉な雰囲気を漂わせていた。


 それにしても、一つ思うことがある。王はヒナが目覚めたあとどうやってごまかしたんだろう? いくら彼がヒナにとって同居してる父親的な存在といっても、口で言うだけで彼女が信じるとは到底思えないんだよな。


 やっぱりベッドに血を垂らしたのかな? それが一番手っ取り早そうだが、そんな小細工で果たして神を騙せるのかっていう疑問もある。


 ただ、相手がジルならともかく、ヒナは記憶を失ったいわば不完全な神だ。もしかしたら初体験後ってことで舞い上がってるからいけるかもしれない……って、俺はこんな大変なときに何を考えてるんだか。学校がこの上ない窮地に陥ってるってのに。


 ん、矢印が輝いてるってことは、討伐対象がもう間近にいるということを示してるわけだが、どこにも見当たらない。というか、超大型モンスターであればとっくに目視できてるはずだが……。


 なのに、そこには岩山が聳え立っているだけなのだ。まさか、『透明化』のような所持能力があって姿を隠してるんだろうか? あるいは山の後ろ側に隠れてるとか――?


「――えっ……!?」


 まもなく、景色が大きく動いたので俺は驚愕するしかなかった。しかも、動いたのは岩山だ。まさか、これ自体がモンスターだっていうのか? どう見たってただの山にしか見えないのに。


 とにかく、『ガイド』の矢印はちょうどその岩山を指してるってことで、俺は真相を確かめるべく【慧眼】を使用することに。

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 名前 マウンテンゴーレム

 種族 ゴーレム族


 HP 333331/333333

 MP  99978/99999


 攻撃力   4989

 防御力  59630

 命中力   8641

 魔法力  99999


 所持能力

『超再生』『擬態』『吸収』『魔法耐性』『物理耐性』


 ランク 未知級

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「…………」


 な、なんだこりゃ……。その圧倒的すぎるステータスを前にして、俺は思わず天を仰いだ。これ、倒すの絶対無理なやつじゃないか?


 とはいえ、やってみなきゃわからないってことで、『ディバインサンダー』、『エターナルフローズン』、『アースデーモン』、『ヘルファイヤ』、『ニューエクスプロージョン』等、持っている攻撃魔法をありったけ岩山へ叩き込んでみる。


「――はぁ、はぁ……」


 ダメだ……。やはり大して効かない上にすぐ再生するため、焼け石に水、骨折り損のくたびれ儲け状態だった。


 攻撃面でまったく秀でたものがない分、防御面であまりにも鉄壁すぎるんだ。防御力だけなら神級モンスター並みかそれ以上なんじゃないか。


 やつはここからじわじわと、俺たちが怖がるのを愉しむかのように追い詰めていくつもりだ……って、いつまでもこのまま傍観してる場合じゃない。


 いずれ近いうちに、本当に学校が潰されてしまう。これは偶然でもなんでもなく、やつにそういう意思があるってことだ。


 学校自体を持ち上げて別の場所に移す、なんてことも考えたものの、いくら桁外れのステータスがあるとはいえ、それはさすがに『限界突破』を使っても無理だろう。動かすことくらいなら可能かもしれないが。今から生徒たちに避難してもらうにしても、場所が場所なだけに、混乱状態になって落下等で余計に死人が多く出そうだ。


 モコの『復元』に頼る方法も考えたが、やつが学校を目指すのはどう見ても潰すためなのであって、そのあとは目的を果たしたってことで歩みを止めて完全な山になる可能性が高いように思う。そうなると復活させても二度死ぬ羽目になる。


 ここは……あれを使うしかないだろう。そう、困ったときの『アンサー』だ。対象が神級モンスターでもない限り、必ず良い答え――攻略法――を用意してくれるはずだ……。

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