一七四話
学校を潰そうと企むマウンテンゴーレムに対し、俺はやつに移動すること自体をあきらめさせるため、強化版『インヴィジブルウォール』で進路を塞いだところだった。
動きを完全に封じることで、自身がモンスターではなく山そのものだと錯覚させるためだ。その狙いが通じたのか、やつは一向にその場を動こうとしない。まるで雄大な景色の一部と化したかのように。
よしよし、いいぞ、この調子だ。頼む、このまま大人しくじっとしていてくれ。こうして動かない時間が続けば続くほど、ただでさえ鈍いであろう思考がさらに鈍っていき、凶暴かつ有害なモンスターからただの無害な自然物へと変化を遂げるはずなんだ――
「――はっ……」
だが、まもなく信じられないようなことが起きてしまう。見えない壁に色がつきはじめたかと思うと、それが見る見る全体に広がり、岩山の一部へと変貌を遂げたのだ。つまり、『インヴィジブルウォール』を『吸収』してしまったってことだ……。
もう一刻の猶予もない。やつは真っすぐ俺たちの拠点へと向かっている。あと10分も経たないうちに、学校は木っ端微塵にされてしまうだろう。
もうどれだけ妨害しても意味はないっていうのか……って、待てよ? 止める術がないというのなら、押すことによって進路を変えればいいだけじゃ? やつは自力で方向を変えられないんだし。
そう考えただけで、俺は一気に目の前の視界が開けてきた感じがした。ただ、進路方向を変えるだけにしても相手は巨大な岩山だから、自分のステータスをもってしても難しい。
それなら、ニンジンを二本食べたスーパーラビやモコの『限界突破』に頼る必要があるだろうってことで、俺は早速ファグたちの元へと向かった。
「「「「「――くー、くー……」」」」」
「なんだよなんだよ、みんな寝ちまってよー。ズルいぜ、寂しいぜ……」
「…………」
なんと、俺の分身を含めて、泣きそうな顔で馬車を操作するファグ以外みんな眠っているという状況だった。
こんなことになるんだったら、ファグのためにも御者くらい雇っておくべきだったかな。まあお金がないから仕方ないとはいえ、作る方法ならあると思うし……っと、時間がないので俺はラビとモコの分身を作ると同時に、彼女たちの姿を自分と同じく【隠蔽】状態にして『ワープ』で連れて行くことに。
超大型ゴーレムが、また一歩学校へと大きく迫っていた。急がなくては。早速二人を『エリクシルヒール』で起こすとしよう。
「――あるぇ、ユートしゃまぁ、ここはどこなのでひゅう?」
「わふう、ご主人さまぁ、ここはどこー?」
「ラビ、モコ、気が付いたか。学校がピンチだから手伝ってほしいんだ。このままだとあの山みたいなゴーレムに跡形もなく踏み潰されてしまう」
「うふふっ。ユートしゃまには私がいないとダメなんですねえ」
「わふうっ。ユートパパにはモコがいないとダメなのねー」
「は、ははっ……」
まあそういうことにしておいて、俺はラビに二本ニンジンを与え、モコには『変身』で元の動物の姿に戻ってもらい、『限界突破』を自分に使ってほしいとお願いした。
これでもダメだったときは、もう一本ニンジンをラビに食べさせるつもりだ。一応、それをやったらどうなるのか『アンサー』で訊ねると、答え自体が返ってこないというエラーが生じてしまった。
おいおい、どういうことだ? それくらいヤバいってことなのかもしれないが、とにかくそういう状況にならないように祈るだけだ。
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