二十話


「――へえ。それじゃホルンとプリンは、花を摘むためにこんなところまで来たのか……」


「ユートどの、いかにもであります! ところが、アビスドラゴンという恐ろしいモンスターが出現したため、仕方なく引き返そうと思っていた矢先でありまして……」


「なるほど。でもいくら花が欲しいからって山の上まで登るのは危険すぎるし、異次元通販っていうので獲得したらよかったんじゃ?」


「それが、もう半年以上売っていないのであります。なんせこの山でしか手に入らない最高に珍しい花でして、すぐ近くまで寄らないと目に見えない仕組みな上、出品されても即座に売り切れてしまうもので……」


「そうなのか……」


 ホルンの説明は腑に落ちるものだった。てか、まさか異世界人もスマホを使ってるってことか……?


「あのね、ユート。プリンはこれが欲しいの……ぷいっ」


 プリンが顔を背けつつ、俺に石板を見せつけてきた。なるほど、これが異世界版スマホなのか。彼女が指差している花にはバツ印があり、欲しがるのもわかるくらい美しいものだった。


 名称は『ダイヤモンドフラワー』といって、白い花びらが透き通っているだけでなくキラキラしている。


「この花が近くにあるんだったら、俺がすぐ見つけてきてやるよ」


「「えぇっ?」」


 さすがにすぐは見つかるわけがないと思ったらしく、二人が驚いた顔をしている。


 それでも今の自分に不可能はないってことで、俺は【魔法作成】スキルによって、探しているものが光る効果の探索用の魔法『サーチ』を作り出すと早速使ってみた。


 さて、どこにあるかな……お、あの場所が輝いてる。そこへ踏まないように慎重に近付いてみると、足元にお目当ての花が咲いているのがわかった。


「ほら、取れたよ」


「……わあぁ、とっても綺麗なのぉ……」


 プリンが花を手に取って涙ぐんでいる。そんなに嬉しかったか。


「ありがとう、ユート……ぷいっ」


「ははっ……」


 お礼を言いつつ顔を背けるプリンの姿に俺は苦笑する。さて、そろそろ帰ろうかな。


「それじゃ、俺はこの辺で――」


「――ユートどの、お待ちくだされっ!」


「えっ……」


 俺はホルンに呼び止められて振り返った。


「是非、山の麓まででいいので、一緒に来ていただけないでしょうか!?」


「で、でも……王女さまは人見知りみたいだし、悪いんじゃ?」


「そのプリンさまが、ユートどのが来るのを強く望んでおられるのです。それがしもですが……!」


「えぇ?」


「……べ、別に、帰ってもいいけど……ひっく……」


 プリンが不機嫌そうな顔や台詞とは裏腹に、俺の足をがっしりと掴みながら言う。目元には涙が浮かんでいた。


「じゃ、じゃあ、麓までなら……」


「……ふ、ふんっ。来てくれてありがとうなの。ぷいっ」


「ははっ……」


 プリンって中々可愛い子なんだな。俺はホルンと笑顔で目配せし合うと、馬車に乗ることにした。まあ、学校がモンスターの群れに襲撃されるまでは時間がたっぷりあるわけだし、多少遊んでも問題ないだろう。

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