一一四話
俺は『フライ』の魔法を使って勢いよく窓から飛び出すと、屋上が小さく見えるくらい上昇したのち、ようやく自分の偽物野郎と向き合った。
こいつ、ここまでちゃんとついてきやがった。あのまま窓から谷底へと落ちてくれたら面白かったのに、憎たらしいほど魔法を忠実に模倣できてる上、飛行の仕方まで俺とそっくりだった。
「おい、偽物野郎、ここなら誰も見てないからもういいだろ? そろそろ教えてくれ。お前は一体何者なんだ……?」
天の声の主であるヒナはもちろん、【慧眼】スキルですらその正体を把握できない上、『コンフェッション』の魔法も通じなかったことから、やつが只者じゃないのはわかる。
なので、こうして二人きりの状況を作ったのは、決着をつけるためなのは当然として、どうしても本人の口から真相を聞きたかったっていうのもあるんだ。
「……はあ? 俺が何者かって? それはこっちの台詞だ。お前こそいきなり現れて一体何者なんだよ、この偽物野郎がっ!」
「ぐっ……」
こいつ、最後の最後まで俺に成りすますつもりなのか……。
こうしてあまりにも相手が自信満々なせいか、本当は自分のほうが偽物なんじゃないかって錯覚してしまうくらいだった。それ自体とんでもない屈辱なわけだが、本当に思い出まで真似できるものなのか、今一度訊ねてみることに。
「なあ、俺は今朝、【ダストボックス】でラビやモコと食事をした。そのときにやった会話内容がお前にわかるか?」
「はあ? バカかお前。本物だからわかるに決まってんだろ」
「じゃあ、今すぐ言ってみろ」
「お夕飯はどんな料理が食べたいですかってラビに質問されたから、酔い過ぎないようにニンジンを少しだけ入れたカレーライスって答えたが? ラビもモコもいつも以上にはしゃいでたなあ」
「…………」
完璧に言い当てている……。こいつ、ジルのように他者の思考まで読み取る能力があるんだろうか。まさか、人型なだけあって神級モンスター?
いや、その可能性だけはないと思いたい。とにかく、ここまで来たんだしこの偽物野郎と戦ってみるか。それで何かわかるかもしれない。
「さあ、決着をつけるぞ、偽物野郎っ!」
「それはこっちの台詞だっ!」
いよいよ戦いが始まり、俺は一瞬で決着をつけてやろうとしたが、やつのスピードは異様に速くて中々捉え切れなかった。
おいおい、本当にステータスまで同じなのか? なんなんだ……。
って、そうだ。この武器ならどうだってことで、俺はやつの一瞬の隙を突き、タイミングよく絶影剣による剣風を叩き込んでみる。
よしっ、これなら避けられない――
「――なんのっ!」
「っ……!?」
やつがこっちに向かって黒い剣を振ったかと思うと、何も起きなかった。つまり、偽物野郎が俺と同じように絶影剣で剣風を振ってきて、それで相殺されてしまったってことだ。
「こいつ……じゃあ、これならどうだっ!」
『ヘルファイヤ』『ディバインサンダー』『アースデーモン』『エターナルスノーデス』の魔法を久々に放ってみる。【魔法作成】のレベルが上がってるおかげで、全部合わせても1秒程度の詠唱速度で発動したぞ。さあ、やつはどう出る――
「――はあぁっ!」
「っ!?」
やつはわかっていたかのように同じ魔法を出し、全て打ち消してしまった。
「ははっ……やると思ったぞ。俺の真似ばかりするなよ、この偽物野郎がっ!」
「…………」
相手はまさに自分そのものだった。一体どうすれば勝てるっていうんだよ、こんな化け物に……って、そうだ。『アンサー』の魔法を使えば攻略法がわかるかもしれない。
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