一一五話


(偽物野郎の攻略法を教えてほしい)


(…………)


『アンサー』で俺の偽物を倒す方法がないか質問してみたものの、いくら待っても何も返答がなかった。


 つまり、あれか。どっちが偽物なのかという区別すらできないほど完璧にコピーされてて、質問自体が意味不明なものとして無効になってるのかもしれない。


 となると、俺か偽物野郎のいずれかがくたばるまで延々とやり合うしかないのか……。




「「――はぁ、はぁ……」」


 自分の荒い息遣い、そのタイミングまで完璧に被っている。ステータスまでそっくりな俺の紛い物と戦ってるせいか、中々決着がつかなかった。


 あともう少しでやつを倒せるかと思えば押し返され、逆にこっちが追い詰められた状況になったところで押し戻すといった具合だ。


 そうなるのも当然で、お互いに苦境に立たされてもHPとMPを全回復できる『エリクシルヒール』があるわけだから。そんなものまで真似されちゃったら、もうどうしようもないんだ……。


「な、なあ、お前さ……いい加減、偽物だって認めて消えろよ……」


「お、お前のほうこそ、さっさと自分が偽物だって白状して消え失せろよ。まったく、強情なやつだな……」


 最初に発言したのが俺で、返してきたのが偽物だが、声色や抑揚まで同じなもんだから、一瞬ごっちゃになってわけがわからなくなる。


 とにかく、このままじゃきりがないし、同じことをひたすら繰り返すのみだ。こんな膠着状態をどうやって打ち破れば――って、そうだ。


 俺はふと思い立って【ダストボックス】スキルを使用した。中にいるモコに『限界突破』を使ってもらえば偽物を倒せると踏んだからだ。


 なんせ、あれは一日一回しか使えない能力だから、こっちに使ってもらったら滅茶苦茶有利になる……って、偽物まで入ってきていた。おいおい、ふざけるなよ、こいつ。


「はっ、はわっ、ユートしゃま……!?」


「も、もひゃっ……!?」


 ラビとモコが驚くのも無理はない。なんせ俺が二人も現れたわけだからな。だが、ラビなら匂いで判断できるんじゃないか?


「ラビ、俺が本物だ。匂いで判断してくれ!」


「いや、ラビ、俺こそ本物だ。匂いを嗅げばわかる!」


 ちなみにこれ、偽物が前者で後者が俺だ。ってことは、まさか……。


「くんくんっ……ど、どっちもユートしゃまの匂いがしまひゅうぅっ……」


「もひゅぅぅっ……」


 やはりそうか。嗅覚が優れたラビでも判別できないほど、匂いまで模倣できるのか……。


「はうぅ……ユートしゃまが二人もいるなんて、わたひ、とっても幸せでしゅうぅ……」


 ありゃ、ラビが目を回して気絶してしまった。もしかしたら、俺が二人いることで興奮するあまり区別できなかった可能性もあるな……って、それどころじゃない。早く偽物を始末しないと。


「なあ、モコ、『限界突破』を俺に使ってくれ!」


「いや、モコ、そいつに騙されるな。俺に『限界突破』を使うんだ!」


「もひゅ……?」


 前者の発言が俺で後者が偽物なわけだが、果たしてモコには判別することが可能なんだろうか。


 それでもラビより期待はできるのは確かなんだ。彼女は未知級ってことで嗅覚も一段と優れてるはずだし、ずっと一緒にいたわけじゃないから主人が二人いてもそこまで興奮することなく、冷静に俺が本物だと見抜ける可能性は高いように思う。


「…………」


 俺はモコの瞳を見つめながら一心に祈った。頼む、モコ。『限界突破』を偽物じゃなくこっちに使ってくれ。そうすれば今すぐにでも偽物野郎を懲らしめることができるんだ……。

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