一一六話
「わ、わ、わふうぅ……」
「「っ!?」」
モコが幼女化したかと思うと、ラビ同様に目を回して失神してしまった。
これはつまり、あれか。どっちが本物かわからなくなってパニックを起こしたせいか、彼女自身に『限界突破』を使ったってことか……。
「「この野郎……」」
俺は偽物野郎と睨み合うが、その際に発した台詞だけでなくタイミングまで一致してしまい、憎悪と同時に絶望の感情が湧いてくる。
人型モンスター相手にこうも苦戦するようだと、どうしてもジルのような神級モンスターを連想してしまうからだ。ただ、【慧眼】スキルは通用したので違うと思いたい。こうなってしまった以上、素の状態でなんとか決着をつけるしかなさそうだ。
「「――ぐぬぬっ……」」
【ダストボックス】から外へ出た俺と偽物による、一進一退の攻防はなおも続いていた。
気が付けば周囲は暗くなりかけていることから、もう数時間はこうしてやり合ってるってわけだ。まさか、本当の意味での分身と激闘する羽目になろうとは夢にも思わなかった。
「……はぁ、はぁ……い、いい加減にしろよ……」
「……ふぅ、ふうぅっ……お、お前のほうこそ……」
後者の台詞が俺なんだが、もうそんなことすらどうでもよくなってきた。このままだと、延々どころか永遠に戦い続けるような状況になってしまいそうだ。
って、そうだ。そこまで考えたところで、ファグやプリンのことが脳裏に浮かんだ。
「なあ、偽物野郎に聞きたいことがある」
「ん? なんだよ、偽物野郎」
「ほかの場所に置いてある『アバター』に異変が生じたらどうするつもりなんだ? まさか、スルーしてこのままやり合うつもりなのか……?」
「はあ? 自分から仕掛けてきておいて、バカなのか。お前みたいな偽物なんか無視して戻るに決まってるだろ」
「ぐっ……」
本当に腹の立つ偽物だ。自分なのに――いや、自分だからこそ余計に頭にくる感じだ。骨肉の争い的な。ただ、こいつに関してはなんの繋がりもない、真っ赤な偽物なわけだが。
それにしたって、この偽物に関しては褒めたくもないが、よく見てないとわからないような俺の癖とか細かい特徴をしっかり掴んでて感心する。一体どこまで正確にコピーできてるんだろうな――
「――はっ……」
そうだ、待てよ? 以前どこかで聞いたことがある。短所と長所は似たところにあると。言い換えれば、弱点がないと思えるような箇所にこそ弱点があるってことじゃないか?
確かにこいつは今のところ俺を完璧に模倣できてるが、そこに惑わされてるようじゃダメだ。何故なら、俺はこの世で一人しかいないわけで、どうしたって真似できない点もあるはずだからだ。
思えば、『アンサー』を使っても無回答のように見えて、この世界には回答がないという答えだったのかもしれない。つまり、正解は別世界――すなわち現実世界にあるってことだ。
「おい、偽物野郎。俺の趣味はなんだ?」
「へ……? 趣味って……しょ、小説だろう」
「じゃあ、その内容もわかるよな?」
「そ、それは……異世界ファンタジーだ」
「もっと詳しく。主人公の名前も」
「……ぐっ……」
お、いいぞ、明らかに動揺してる。やはりこいつは異世界に来てからの俺しかコピーできてないので、現実世界の自分のことは知らないんだ。
「主人公や仲間の名前だけじゃなく、性格も教えろ。あと、なんの小説を参考にしたか、お前にわかるか?」
「シッ、シラナイ……ワカラナイ……ナゼ、ダ……」
どうやら相当にショックを受けてる様子。偽物にとっては致命的なものだったらしい。
「ア……アアアアアアッ!」
「っ!?」
やつは頭を抱えて苦しみ始めたかと思うと、見る見る姿を変貌させていった。黒い人影のようなものだ。これが偽物の正体か。早速ステータスを確認してみよう。
__________________________
名前 ドッペルゲンガー
種族 悪魔族
HP 6666/6666
MP 1111/1111
攻撃力 481
防御力 563
命中力 520
魔法力 1111
所持能力
『影移動』『潜伏』『探知』『模倣』
ランク 未知級
__________________________
「…………」
なるほど、未知級だったか。道理で強いわけだ。ステータスはその割に平凡に見えるが、所持能力の『模倣』が肝で、違いを見破られない限り本人に完全に成りすますことが可能だとか。ただ、バレてしまうともう二度と本人にはなれないらしいから、これで勝負あったな。
「覚悟はできてるんだろうな、偽物」
「チ、チガウ、ニセモノジャナイ。オレコソガ、ホンモ――」
「――黙れ、クズの偽物野郎っ!」
俺はやつに『ストップ』や『ステッチ』をかけて徹底的に動きを封じてやると、『ニューエクスプロージョン』を『ラージスモール』で弱体化させ、じわじわと苦痛を与えながら処刑してやった。
「グッ……グギャアアアアアアアアアァァァッ!」
《仕置き人》の称号もあるせいか、やたらと痛々しい悲鳴だったな……。
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