一一七話


 自分を騙っていた悪魔――ドッペルゲンガーを打ち砕いたこともあって、俺は2年1組の教室へ戻ったところだった。ちょうど夕方の六時なので天の声が聞こえてくる頃だ。


『学校の皆さま、例のモンスターの件についてですが……良いお知らせがあります!』


 お、早速来た。声がやたらと弾んでることからも、俺と偽物の死闘をどこかで見ていてくれたようだ。


『既に学校内には、そのモンスターが侵入してしまっており、ユートさま――い、いえっ、に成りすましていましたが、つい先ほど仮面の英雄さまが退治してくださりました!』


「……ははっ……」


 俺の名前が飛び出したので心臓に悪かったが、咄嗟に優等生ってことにしたのか。なるほど、上手いこと機転を利かせた格好だな。


『それでも、私が至らないせいで皆さまに精神的な負担をかけてしまったことは事実です。深く反省しております。特に仮面の英雄さま、申し訳ありませんでした……。今回のようなことが二度と起きないよう、これからはより細心の注意を払っていきます。それでは、この辺で失礼――あいたっ!』


「…………」


 天の声の人――ヒナも謝ってばかりで大変だなあ。しかもまたドジって痛い目を見たようだし。学校に襲来してくるモンスターを調査するにしても、未知級まで行くと正体を把握することさえも難しそうだ。


 俺自身、今回戦ったドッペルゲンガーに関しては、膠着状態が長く続いたこともあって、正直倒せないんじゃないかと思ったくらいだからな。


 そうだ、次は不良グループの様子を見てみよう。やつらは絶滅危惧種並みに数が減って大分静かになったとはいえ、虎野がいなくなってボスになった近藤と、その新恋人の浅井の存在感は、この鬼畜揃いのクラスの中でもやたらと際立っていた。


 ただ、今日に限っては何やら様子がおかしい。浅井が露骨に不満そうな顔をしていて、なんとも不穏な空気に包まれていたからだ。一体何があったのか、耳を澄まして話を聞いてみるか。


「――なあ、六花、おいらが悪かったからさあ、いい加減、機嫌を直してくれよお……」


「……無理無理。もしかして近藤君って頭沸いてる? ってあれほど言ったのに、バッカじゃないの!? 赤ちゃんができちゃったらどうするのよ……」


「ぬぐぐっ……だってよお、そのほうが気持ちいいだろおっ!?」


「はあ……」


 なるほど……近藤のやつ、浅井とヤるときにコンドー〇をつけてなかったのか。まあいかにもあいつらしい。普段から何も考えてなさそうだし。


「コッ……コケエエェェッ!」


「ぶはっ……!? あ、暴れるな、クソチキンめが、そんなにフライドチキンにされたいのかねっ!?」


「ギョワーッ!」


 例の如く、浅井と近藤の会話を聞いた鶏野が暴れて羽や糞を撒き散らし、それを鎮めるべく反田がレイピアで突くという阿呆な流れだ。


 ただ、今回は一段と激しく突かれたらしく気絶してしまってる。まあそれでもあいつの高いステータスならすぐ持ち直すだろう。


 ん? ファグたちのところにいる分身に何かあったみたいだ。


 確か、今は馬車を走らせてる最中だったはずだが、どこかの村にでも到着したんだろうか? こっちの用事も済んだことだし行ってみるとするか。

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