一一八話


「「「「ユートッ!」」」」


「あっ……み、みんな、一体どうしたんだ? ふわあ……」


 馬車の中へと『ワープ』してきた俺は、いつものように起こされる振りをしつつ、眠そうにファグたちに訊ねる。


「あれを見てみろ」


「あれ見てっ」


「あれを見るんじゃ」


「あれを見て頂戴……」


「えっ……」


 俺はファグたちに言われるがまま、窓からがなんなのか確認してみたわけだが、しばらく開いた口が塞がらなかった。


 ここからかなり距離はあるが、今までとは比べ物にならない規模の住居群が広がっていたからだ。凶悪なモンスターたちが蹂躙跋扈するこの世界で、まさかこんな光景を拝むことになるとは思いもしなかった。


 あれがエルの都なのか……。人が住んでいるかどうかはまだわからないものの、崩れかかってる感じには見えないし、住民たちが生存している可能性は高そうだ。


 ああして一つ一つの建物が現存しているのは、ずば抜けて高い防衛システムがあるってことだろう。それに、あそこならクオリティが高いものも捨てられてそうだからその辺にも期待したいところだ。捨てられても時間がそんなに経過してなきゃ、例のハンマーやモコのように拾えるみたいだからな。


「いやー……もっと見ていたいってのによ、涙で視界が霞んできやがった……。エルの都をこうして拝める日が来るなんて、生きててよかったぜ……」


「んもう……ファグったら、いくらなんでも大袈裟なんだからあ……ひっく……」


「カッカッカ……! まだ到着しとらんうちに泣いべそかいとるミアもな。そう言うわしも変な液体が目から零れておるがのう……」


「ホント、みんなダメねえ。泣くほど嬉しいのはわかるけど、せめて着いてから喜ばないとダメでしょ……ぐすっ……」


「…………」


 ファグたちは全員涙ぐんでるし、異世界の住人としては相当に感慨深いんだろうな。ほかの世界から来た俺ですら感動するくらいだから、都を見ただけで感極まるのもうなずける。


「そうだ、折角だから前祝いとして、【ダストボックス】――いや、異次元で夕飯を食べようか?」


「「「「おーっ!」」」」


 俺の提案に対してファグたちから歓声が上がる。あそこなら絶対的に安全だし、戦闘民族のラビの存在にも慣れてきたみたいだからな。


 早速【ダストボックス】に入ると、なんとも美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐってきた。今日の夕ご飯はラビの作ったカレーライスなんだ。


「――出来ましたよぉー。どうですかぁー?」


「う、旨っ! なんだこりゃ!?」


「こんなに美味しいもの、僕今まで食べたことないよお!」


「こりゃヤバいの! まさに神の食べ物じゃっ!」


「すごっ、美味しいなんてもんじゃないわ。ねえ、これってどんな食材が入ってるの? 正直信じられないんだけど……」


「もっひゃー!」


「ははっ……」


 モコを含めて、ファグたちは初めての食べ物の味に感激している様子。俺がラビに作り方を教えたんだ。《食料の解放者》という称号も相俟ってか、作ったばかりなのに食べてみたら熟成された本場のカレーライスの味で、まさしく極上品といえるものだった。


 なんせ、ファグたちは普段から干し肉ばっかり食べてたみたいだし、舌がしびれるほどの旨味を感じたはず。俺も彼らと一緒に干し肉を食べる機会が何度かあったが、しょっぱい上にカチカチで不味かったからなあ。


 さて……明日はいよいよ、四回目の不良グループ処刑祭りを開催する予定だ。そういうわけだから寝る前にサイコロタイムといくか……。

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