一一三話


「プリン、ホルン! 気を付けろ、そいつは偽物だっ!」


「「っ!?」」


 保健室に飛び込んだ俺の台詞に対し、プリンたちは驚愕した様子で俺を偽物と見比べ始めた。


「ユッ、ユートが二人もいるなんて、どっ、どういうことなの……!?」


「そっ、それがしにも、さっぱり事情が呑み込めませぬ……!」


「プリン、ホルン、落ち着いて。楽しい時間を邪魔してきたあの男こそ俺の偽物だっ!」


「はあ……?」


 偽物野郎が俺を指差したかと思うと、とんでもないことを言い放ちやがった。


「「……」」


 しかも、それまで偽物と談笑していた分バイアスがかかったらしく、プリンとホルンがヒソヒソと何やら会話したのち、怪訝そうな眼差しを俺のほうに向けてくるのがわかる。これも計算尽くか? このままじゃまずい。


 そうだ、を使えば俺が本物だっていう証拠になるかもしれない。


「これならどうだ。観念しろ、偽物っ!」


「ん……?」


 例の仮面を被った俺に対し、やつは呆れたような笑みを浮かべてみせた。


「バカか。そんなものを被ったくらいで俺を偽物扱いできると思ってるのか?」


「な、何っ……!?」


 偽物の俺が、俺と同じく仮面を装着しやがった。しかも、瓜二つのものだ。そんなところまで真似できるのか……。


「どうした、この仮面をつけたら本物になれると思ったのか、ふざけるなよ、偽物めっ! 一体何が目的なんだ!?」


「ぐっ……」


 こいつ、偽物の分際でやたらと口が達者だな。これじゃ、まるでこっちのほうが偽物みたいな流れじゃないか。


「あなたが偽物なの……!?」


「貴様が偽物なのであるか!?」


 俺に対するプリンとホルンの疑念も濃くなってるみたいだ。かなりまずい状況だが、こういうときこそ落ち着かないといけないってことで、自分に『クール』と『セージ』をかけつつ打開策を練る。


 ……そうだ。俺にはプリンたちとの思い出があるが、偽物にはないはず。それを打ち明ければいいんだ。


「プリン、ホルン、信じてくれ。俺が本物だ。ほら、初めて会ったときのこと、覚えてるだろ? アビスドラゴンを倒したあと、ダイヤモンドフラワーだっけ、あれを探してて、俺が魔法を使ってすぐに見つけてやったよな?」


「えっ……じゃあ、あなたが本物なの……?」


「貴殿が本物のユートどのなのでありますか……?」


 よしよし、いいぞ、この調子だ――


「――騙されるな、二人ともっ! その話はさっき俺たちがしてたし、この偽物は盗み聞きしてただけだっ!」


「なっ……」


 この偽物野郎、俺の思い出までもコピーできるっていうのか。一体何者なんだこいつは……。


 そうだ、自白させる魔法『コンフェッション』を使おう。


「おい、お前は偽物だ、そうだろう?」


「バカか、俺こそが本物のユートだ!」


「…………」


 通じないだと……。まさか、偽物の癖に自分こそが本物だと、そういう風に思い込んでるのか。とにかくこのままじゃ埒が明かないし、さすがに強さまでは真似できないだろうってことで、俺は窓の外をビシッと指差してみせた。


「それなら戦闘で白黒つけるぞ、ここから出ろっ!」


「なるほど、俺を殺して成りすまそうってわけか。ああ、やってやるよ。お前みたいな偽物に俺が負けるはずがないしなっ!」


「…………」


 こいつ……俺に勝てる自信があるのか? それじゃあ、まさかあのステータスはまやかしじゃないっていうのか。いや、そんなはずはない。虚勢を張ってるに違いない。じゃなきゃ、俺が二人いるってことになってしまうわけだからな……。

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