第六章

一四八話


 な、なんだ? この場所は……?


 俺は『ワープ』でファグたちの元へと飛んだばかりなわけだが、そこは圧迫感を覚えるほど狭い上に薄暗く、上下に延々と螺旋階段が続いていた。


「いやー、ちょっと疲れたけどよ、今日はホント楽しかったなあ、みんな」


「「「「「だねー」」」」」


「…………」


 ファグの台詞に対して、『アバター』を含めてみんなが階段を下りながら満足そうにうなずくのを俺はしばらく呆然と眺めていた。


 早くも取り残されてる感が強いってことで、早速例のテクニック『以心伝心』を分身に使ってみることに。これさえあれば記憶を引き継ぐことができるし、気分の悪い置いてけぼり感も消えるはずだ。


 ――お、おおぉっ……あ、危ない。思わず声を出してしまうところだった。


 というのも、濃厚な記憶が駆け足で一気に入り込んできて、その刺激が強すぎたからだ。どうやら、以前に『以心伝心』を使ったときと比べると印象深い思い出がありすぎたようだ。


 それも間接的に伝え聞いたというより、すっかり忘れていた出来事を急にはっきりと思い出した、という感覚が近いように思う。なので心の空白が一気に埋まっていく感じがして心地よかった。


 ちなみに俺の分身がどんなことを体験していたかっていうと、ラビやモコと一緒にエルの都の出店を一通り回って楽しんだあと、広場でファグたちと合流することになった。それから都で一番高い塔の天辺まで登り、壮大な夜景を思う存分堪能してそこから戻る途中だった。


『『『『『わぁぁっ……』』』』』


 ラビたちの歓声とともにその絶景が脳裏に浮かんできて、本当に便利なテクニックだとしみじみと感じる。


『なんだか俺たち、天下を取ったみてえだなあ』


『天下って……ププッ……。ファグは気が早いんだからあ。でも、ユートがいればそのうち取れちゃうかもよお?』


『うむ、ミアの言う通りじゃな。そのうち、わしらはユート王を擁立し、王都へ乗り込んで王座を奪ってやるんじゃ! ……どこにあるかは知らんがのう』


『あらあら、それって簒奪っていうんでしょ。キーンったら物騒なことを言うのね。あたしたちって海賊か何か?』


『はうぅ、それじゃあ私たちはユート団というわけでしゅねえっ!』


『ユート団!? わふうぅ、なんだかたのしそー!』


「…………」


『以心伝心』のおかげで、思い出そうと思えばこうしてファグたちの会話も脳内で再生できる。そこはどうやら外部を監視するための塔で、モンスターの襲撃に備えているらしい。天辺には遠視系のスキルを所持した兵士が複数いて、交代制で見張っているようだった。


 気になるのが、かつてのドッペルゲンガーみたいな隠蔽型のモンスターや、スキルが通じないジルのような神級モンスターが襲ってきた場合、一体どうやって対処するのかということ。


 もしかしたら、ああいった恐ろしい連中ですら、この世界ではマシなほうなのかもしれない。ジルは人間のことを嫌ってるみたいだが、積極的に殺し回るほどじゃないと思うし、それが目的ならエルの都もとっくに壊滅しているはずだしな。


 モンスターが出たら都そのものが消えるという優れた防衛システムではあるが、それがあっても完璧じゃないように見える。だからこそヒナが救世主を探してるんだろうけど。


「…………」


 ん? 俺たちは今、月明かりが射し込む窓に差し掛かったんだが、遠くのほうで……。飛行型のモンスターかなんかだろうか。靄があってよく見えないが、とても小さい影だしかなり遠くだから問題ないだろう。何よりこっちのほうには近付いてきてないしな。

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