一四九話


「エルの都に乾杯っ!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


【ダストボックス】内、ファグを筆頭に弾んだ声が響き渡った。


 エルの都の酒や食料品は宿代に比べると安かったので、こうして夜のお花見が始まった格好だ。まあこの花々に関しては王都フローラで捨てられたものなんだけどな。


「――ういー、おらおら、みんなどうしたぁ、もっと飲めーっ!」


「「「「「も、もう無理……」」」」」


 そのうちミアたちが潰れてしまい、《酒豪》のファグだけが延々と飲み続けるいつもの流れだ。


 ちなみに俺はというと、『以心伝心』があるとはいえたまには生の臨場感を味わおうってことで分身を引っ込めている。


「お、ユート、珍しく飲んでるじゃねーか!」


「あっ……」


 俺は気付けばグラスに注がれていた酒を飲み干してしまっていた。まったくといっていいほど飲めなかったのに妙だな。酒の匂いに慣れてきたのもあるんだろうか。


「しかも、全然酔ってねえとか《酒豪》の才能あるんじゃねえの!? ほら、もっと飲めっ!」


「ちょっ……」


――もっとだ……。もっと寄越すがよい……。


「…………」


 今、何か聞こえてきたぞ。この前響いてきた例の声と似てる感じがする。


「ユート、どうした?」


「あ、いや、なんでもない……」


 不気味さを覚えつつも、俺はもう一杯だけいただくことに。やはり自分の中に得体の知れない何かがいるんだろうか? 気のせいだと思いたいが……。


 おや、プリンたちのところにいる分身に変化があったらしい。ファグはすこぶる上機嫌で飲むのに夢中になってるし、適当に分身を置いて向こうへ行ってみるか。




「――ユート、もう一度聞くね。どっちがいいと思うの?」


「どっちもいい」


 例の豪華な宿の一室にて、俺の『アバター』がプリンに詰め寄られていた。


 一体何があったんだと思って『以心伝心』を使ってみると、夕食のあとでプリンが持ってきた服が二着あり、どっちが自分に似合うかをしきりに質問しているのがわかった。


「はあ……。どっちもいいって、それは何度も聞いたの。あえて、どっちなのかを聞いてるんだけど!?」


 頬を膨らませたプリンが再度質問する。


「ああ、どっちでも構わない」


「「はあ……」」


『アバター』の返答に対し、呆れ顔を見合わせるプリンとホルン。どうやら、『命令』で適当に合わせるように言ったことがアダになってしまった格好のようだった。性能が向上したとはいえ、分身はあくまでも分身なので融通が利かないんだ。


 とはいえ、今更『命令』でどっちか選べって言ったところでこの出来上がってしまった気まずい空気は変えられないだろう。こういう風になった場合、どうやったら挽回できるのかを『アンサー』で訊ねてみることに。


(雰囲気が悪いが、ここからどうやって良い流れを取り戻せる?)


(フラワー)


 フラワー……? あぁ、そうか。そういや、【ダストボックス】に花が沢山あったな。どれもしおれてたから捨てられたってだけで、本来は珍しくて美麗なものばかりだし、再生してある上に《植物の再生人》っていう称号の効果もあるから喜ばれるはず。


「――わっ……!?」


 俺は分身を消すとともに【隠蔽】状態を解き、花束を持って現れた。


「き、綺麗……。これ、プリンにくれるの……?」


 涙ぐむプリンに対して俺はうなずいてみせた。


「さすがはユートどの。それがしはようやく、貴殿のがわかりました。愚かでした」


「ホルン、それってどういうことなの?」


「コホン……おそらくユートどのはこう言いたかったのであります。この花束のように、どれも同じくらい綺麗でプリンさまに似合うと思ったから選べなかった、と……」


「そ、そうなんだ……。じゃあ、全てはこの花束の前振りだったの? プリンが勘違いしちゃったみたいでごめんなさい!」


「い、いいんだよ。わかってくれれば……」


 なんか勝手に良い方向に解釈されたが、これでよかった。とりあえず、ずっと離れていたこともあってこっちで寝ることに。さっきからやたらと眠気がするし、酒が回ってきたみたいだからな……。

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