八三話
天の声の人――ヒナと別れたあと、俺は複雑な気持ちを引き摺ったまま【ダストボックス】へと入ることになった。
あの子が本当に神様なのかどうかはともかく、学校ごと異世界へ召喚する能力があるだけでなく、【慧眼】スキルが効かない上、記憶を消すことができるくらいだからそれ相応の力があるように思う。
だったら彼女自身が救世主になればいいんじゃないかとも思うが、それができないような深い事情があるのかもしれない。今度話す機会があったら訊いてみようか。
「ユートさまあっ」
「もきゅあっ」
「うあっ」
ラビとモコが抱き付いてきて、俺はびっくりしたものの気持ちが幾分和らいだ気がした。やっぱりここはマイホームだな。ファグたちのいる場所も捨てがたいが。
お、箱が幾つか置いてあるから、食料の補充でキャンセルされた食料があったみたいだ。
開けてみると、大根や玉ねぎといった野菜等、全部調理されていない食材だった。なるほど、早い者勝ちってことでとにかく目につくものを選んでみたものの、調理が面倒だからかキャンセルされたっぽい。
「はうぅ、美味しそうですうぅ……。これからお昼ご飯の準備をしますねえっ」
「もひゃっ!」
ラビが宣言してモコが目を輝かせてる。そういや、お腹空いてきたからちょうどいいな。
「あう? くんくんっ……」
「ん?」
ラビがはっとした顔で俺の手の匂いを嗅いできた。なんだ?
「むうぅ、またあの嫌な匂いがしますよぉ……」
「あっ……」
そうだ、天の声の人に手を握られたんだった。
「私がこの匂いを消しますううぅっ!」
「ちょっ!?」
ラビが俺の両手を自身の胸元に突っ込んでしまった。や、柔らかい……って、おいおい……。
「んんっ……これで完了でしゅうぅっ……」
「…………」
まさかここまでするとは。もしこの匂いの持ち主にペット呼ばわりされてるのがわかったら、ラビは怒り狂ってニンジンを与えなくてもスーパー化しそうだな……っと、そうだ。
素材に『レジスト』をかけつつ『ラージスモール』で巨大化させ、小分けした上で今必要ないものを冷蔵庫に保存するのも忘れない。これなら腐敗、劣化する心配もないだろう。
「――はぁーい、できましたよぉー」
「おぉっ」
「もきゃっ」
ラビの作った料理をモコと一緒にいただく。
いやあ、月並みな言い方ではあるが、彼女の手料理はほっぺたが落ちるほど美味しいなあ。もちろん《食料の解放者》の影響もあるんだろうが、それだけじゃない気がする。特に野菜の炒め方が巧みで、さすがニンジン大好きなキャロット族というだけある――
「――はっ……」
「ユートさま、どうしましたぁ?」
「もひゃあ?」
「……あ、いや、あまりにも美味しすぎて思わず声が出たんだ……」
「あ、あうぅ。も、もっともっと、私の分も食べなさいっ」
「う、うん……」
俺は口の中にラビの分も放り込んだが実際はもうお腹いっぱいで、ファグたちのところにいる分身に異変があったんだ。
「ちょ、ちょっと、食べすぎたから運動してくるよ……」
「はぁいっ」
「もひゃいっ」
俺は苦しみつつも『ワープ』を使用し、急いでファグたちの元へと飛んだ。何か、いつもと違う感じがするのは気のせいだろうか。分身の訴え方が、強いレベルで命の危険を感じさせるものだったんだ。一体何があったのやら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます