八四話


「「「「ユートッ……!」」」」


 ファグたちが目の色を変えて俺の分身を起こす様子は、今までよりも緊迫感が段違いだった。


 ってことは、嫌な予感が当たったのか……? とはいえ、彼らは無事だしまだ何事も起きてないみたいでよかった。


 そういうわけで、俺はいつものように分身に自分を重ねつつ【隠蔽】と『アバター』を解除した。


「ど、どうしたんだ、みんな?」


「お、起きたかっ! ユート、後ろからが追ってきやがるんだ」


「変なやつ?」


「うん。ユートが起きてよかった。でも、なんか凄く怖いよ、今回の相手……」


「確かに、なんとも不気味すぎる輩だのう。ユートよ、お前さんだけが頼りじゃ……」


「なんだかとても嫌な予感がするわ……。凄く怖いの。ユート、あたしたちを助けて頂戴、お願い……」


「…………」


 ファグたちの中でも、リズの悲愴感は際立っていた。俺はそんな不安そうな声を一手に浴びながら、追手が一体どんな化け物なのかを探ることに。


「――なっ……」


 俺は一瞬、幻覚でも見てるんじゃないかと自分の目を疑ったが、そうじゃなかった。


 大きな剣を背負った少女が、無表情で悠然と飛行しながらこの馬車を追いかけていたのだ。本気を出せばいつでも追いつける感じだが、注意深く俺たちの出方を探っている様子で、強者のオーラをこれでもかと放っている。


 強力なスキルを持った商人ギルドの連中か、あるいはどこかの王族か貴族か何かか……。試しに手を振ってみたが、表情一つ変わらなかった。


『なあ、あんた、俺たちになんの用事だ?』


 相手に『テレパシー』でメッセージを送ったものの、まったく応答がない。


 これは迂闊に手を出すと危なそうだな。まずは【慧眼】でやつのステータスを覗いてみるか――って、どういうことだ……? ヒナにやったときと同じく、何一つ表示されることはなかった。


 そうだ、もしかしたら相手とのレベル差がありすぎるのかもしれない。それなら、モコに『限界突破』を使ってもらえばいいんじゃないか? そう思い立って俺は馬車ごと【ダストボックス】へ放り込むことに。


「ユ、ユートさまっ……?」


「もひゃっ……?」


 ラビとモコがびっくりした様子で駆けつけてきた。そういや、ここに馬車ごと来たときはいつもラビは寝てたんだったか。モコは人間の姿になってないし、まだ例の能力を使ってないみたいだからよかった。なんせあれは一日一回しか使えないからな。


「ラビ、事情はあとで話す。モコ、俺に例の能力を使ってくれ」


「もひゅっ!」


 モコがうなずくとともに毛を逆立て、その目が怪しく光った。よーし、力が漲ってくるぞ。これならいける。俺はすぐに【ダストボックス】から出ると、周囲を見渡した。


 あれ、いない……? と思ったら、真上に浮かんでいて無表情のまま俺を見下ろしていた。


 な、なんなんだこいつ。偶然かもしれないが、まるで俺がここに戻ってくるのがわかっていたかのようだ。待ってろ、すぐに【慧眼】でその正体を暴き出してやる。


__________________________


 名前 ジル

 種族 神族


 HP 313206/313206

 MP  92381/92381


 攻撃力 99995

 防御力 79903

 命中力 65052

 魔法力 92381


 所持装備

 滅殺剣

 黄泉の羽衣


 所持能力

『読心』『封印』『神威』『魔法無効化』

『物理耐性』『幽体化』『復活』『破滅』


 ランク 神級

__________________________


「…………」


 な、なんだと……。やつはとんでもない化け物――というか神級だった。おいおい、勝てるのか、これ……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る