八五話


 魔法が通用しない上、物理耐性があってステータスは桁外れときた。そんなデストロイを大幅に強化させたみたいな神級モンスターを前にして、俺は一体どうすりゃいいっていうんだ……?


 ただ、一応物理は効くってことで剣風を食らわせようとしたら、あっさりかわされてしまった。


 こっちの行動を読んでいるとしか思えない回避の仕方だ。ならば、何も考えずに無心で斬りかかってやる。


「はああぁぁっ!」


「ぬうっ?」


 やつに対して怒涛の攻撃を繰り出すが、寸前でとことん避けられてしまう。


「――はぁ、はぁ……」


 だ、ダメだ……。動きを読まれる以前に身体能力に差がありすぎるらしい。よく考えたら、『限界突破』した俺のステータスの倍くらいあるわけだから当然か。


 こうなったら、ひとまず対策を立てるべく【ダストボックス】へ避難するしかないんじゃないか。そう思ったとき、やつはそのタイミングを見計らっていたかのように口元を動かした。


「無駄だ。私の能力によって、お前の所持しているスキルは全て使用できないようにした」


「えっ……」


 このモンスター、人型ってだけあって喋れるのか。というか、スキルを使えないようにしたって……それってつまり、【ダストボックス】も使えないから逃げ場を完全に失ってしまったわけで、もう120%おしまいってことじゃ……?


「おしまいだと? 何が終わりなのかは知らんが、私のステータスを盗み見した以上、こちらもそのお返しをさせてもらう」


「うっ……!?」


 ジルという名の少女が目睫まで迫ってきて、俺は身じろぎ一つできなくなった。これもやつの能力の一つなのか。っていうか、今にも鼻先や唇まで触れそうな、それくらい近い距離なのに、やつは表情一つ変えない……。


「ん、どうしたのだ?」


「あ、いや……」


 こうして見るとただの少女だが、神級モンスターなんだよな……。


「私がただの少女だと? 変わっているな。お前にはそう見えるのか」


「そ、そう見えるけど……」


「まあいい。今まで遭遇した人間の中でここまで怯まず、動きが良い者は見たことがないと思っていたが、それも納得できるほどの素晴らしい能力だ。これなら私のステータスを盗み見できたのもうなずける」


「…………」


 もう覗かれちゃったのか、俺のステータスが……。


「ん? お返しをしただけだ。もう用済みだからそろそろ殺してやるが、その前にほんの少しだけ興味を持ったからお前の過去を覗かせてもらう……」


「くっ……」


 こいつに過去を見られたあと、俺はこんなところで殺されてしまうっていうのか? 

 いや、ダメだ。まだ死ぬわけにはいかない。あまりにも絶望的な状況だが、それだけはなんとか避けなければ……ん、ジルの表情が少し変わったような。


「――お前に対し、何やら呪文のようなものを唱えている者たちがいるが、これは一体なんの儀式なのだ?」


「あ、あぁ、それは葬式ごっこだよ」


「何、葬式の真似事だと……? 生きている相手に対して、実に奇妙なことをやるものだな。人間というものは……」


「ま、要するに俺に対して早く死ねっていう呪いの儀式みたいなもので、それを茶化してるんだよ。だから、ここで死ぬわけにはいかない。あいつらにやり返させてくれ……」


「そんなに悔しかったというのか?」


「もちろんそれもあるけど、俺は義理堅いからお返しがしたいんだよ。あんたと同じ理屈だ。ジル」


 どうせ死ぬなら言いたいことを言ってやる。心の中を読まれるなら洗いざらいぶちまけてやる。俺はもう完全に開き直っていた。


「……なるほど。面白い。がいるようだな、お前の中に……」


「え……?」


「いいだろう。それが成長してどんな姿になるのか楽しみだ」


「よ、よくわからないけど、それって見逃してくれるってことかな?」


「もちろんだ。しかし、次に会ったときまでに、お前の中にいる化け物が成長していないと感じたら問答無用で殺す。そもそも、私はあまり人間が好きではないのでね……」


「…………」


 いつの間にか、神級モンスターのジルはいなくなっていた。喋っている途中で、まるで夢のように消えるんだな。だが、やつに植えつけられた恐怖は当分なくなりそうになかった。


 それにしても、俺の中にいる得体のしれない何かって一体なんのことだ?


 まさかそんなものがいるなんて夢にも思わなかったが、意識してないうちに存在しているっていうなら、今まで通りのスタイルでやればいいんだよな……。

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