一六四話
ギルドマスターの居場所を遂に突き止めた俺たちは、透明人間状態で隠れ家へと侵入した。
さすがに冒険者のトップの邸なだけあって、いかにも高価そうな絵画や絨毯、家具がずらりと並んでいた。ただ、嗜好がちょっとズレてるっていうか、ドレスを着た白猫の肖像画や猫の目のような絨毯模様、猫が隠れられるような丸い穴がついたソファやテーブル、壁に取り付けられた天上の穴まで届く小さな階段等、それ関係のものばかりなのが気になる。
――お、なんかイビキが聞こえてくると思ったら、陽のあたる窓際でハンモックに揺られながら猫の獣人が丸くなって寝ていた。なるほど、道理で嗜好が偏っていたわけだ。
おそらくあれがギルドマスターだろう。快適な環境なのに魘されているらしく、時折顔をしかめている。俺たちが商人の姿で叫んだのが影響してるっぽい。それまで気持ちよく眠ってたんだろうからいい気味だ。
「ユート、オレらが探してるのはあのケダモノで間違いねえ。例のうぜえ臭いがプンプンしやがる」
スーパーラビもそう言ってるし確かなんだろうが、一応【慧眼】でステータスを覗いてみることにした。
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名前 ナモル
年齢 32
性別 男
HP 10200/10300
MP 1400/1400
攻撃力 1200
防御力 1150
命中力 960
魔法力 1400
所持スキル
【隠遁術師】レベル15
所持装備
ゴールデンクロウ
ディバインベル
所持テクニック
『雲隠れ』『煙幕』『隠れ蓑』『虚像』
称号
《ギルドマスター》《優柔不断》《チキンキャット》
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「…………」
称号を見れば一目瞭然だったってことで、俺たちは透明状態を解除して耳元で怒鳴ることに。
「――ひああああっ!?」
飛び起きるギルドマスターのナモル。びっくりした顔で俺たちの顔を一通り見たあと、四つん這いになって俺たちの足に頭を擦りつけてきた。
「ウニャー……? ゴロゴロ……」
「おー、可愛い猫ちゃん――じゃねーよ、このチキン野郎がっ!」
「ひぎゃっ!?」
ラビに胸ぐらを掴まれてナモルが毛を逆立てる。
「しょ、商人さま方が、ここに一体何用なんでしょ? あの、欲しいものならなんでも持っていってください……」
「「「「「……」」」」」
いかにも媚びた様子で手を擦り合わせるナモルを前に、俺たちは心底呆れた顔を見合わせる。冒険者のギルドマスターもここまで落ちたのかと。
とりあえず、俺たちは姿を元に戻して彼に今までの経緯を説明することにした。
「――ほむ。なるほどなるほど。そういうわけだったのですな。いきなりこんなことをされて、心臓が止まるかと思いましたよ、まったくもう……」
その割りに普通に喋ってたけどな。みんなの無言のプレッシャーに気圧されたのか、ナモルが涙目でひざまずいてきた。
「わ、私も本当はそろそろ帰らねば思っていたんです。しかし……しかしですな、商人ギルドの連中があまりにも強すぎるから、自分が帰ったら逆に冒険者ギルドのみんなが危うくなるのではと危惧し、彼らの命を守るためにもこのままのほうがいいんじゃないかと迷いましてな……」
……まあそういうことにしておこう。快適な空間で堕落してるようにしか見えなかったが、彼の立場的に葛藤がまったくないはずもないからだ。
「ギルドマスター。俺にいい考えがあるので、とりあえずみんなを元気づける意味でもこれから一緒に帰りましょう。どういう作戦かはそのときに話しますんで」
「えっ、で、でも、まだ心の準備がですなあ――」
「――つべこべ言わずに今すぐ来やがれってんだ! 文句あっか!?」
「い、いえ、まったくないです……」
勢いに任せたスーパーラビの説得もあり、ギルドマスターのナモルが無事、俺たちとともに冒険者ギルドへと帰還することが決定した瞬間だった。
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