一六五話
「……おや、また誰か来たのかい……? ご覧の有様だし、もう冒険者ギルドは終わりだよ。閉店、おさらば、店じまいってわけさ――」
「――いやはや、こんなになるほど待たせてしまいましたな……」
「えっ……ギ、ギルドマスターさま? ちょ、ちょっと、夢でも見てるのかい、あたいは……アイタッ!?」
ギルドマスターのナモルを見て、それまでぼんやりと煙草を吸っていた受付嬢が椅子から転げ落ちてしまった。凄く痛そうってことで夢じゃないのはわかったはず。
「お、おい、ギルドマスターさまが帰還だと!?」
「マ、マジかよ、仲間に知らせてくるぜっ……!」
それまで酒を飲んでいた連中も、一様に目を丸くしてギルドを飛び出していった。逃げ回ってるように見えて、やはりそこはギルドマスター。なんだかんだ冒険者たちからの人望が篤かったんだな……。
「……あ、そうだ。みなさん、ちょっとよろしいですかな? 家に忘れ物を取りに行かねば――」
「――おいてめえ、そんなこと言って逃げようってんだろう! 死んでも逃さねえぞ!」
「あ、ひ、ひぃぃっ、ずびばぜんでじだ……!」
「…………」
またしてもナモルの逃げ癖が出た格好か。ラビが首根っこを掴んで叱ってくれたからいいものの、許可を出していたらそのまま雲隠れしてしまいそうだな。
「ううぅっ……。ここまで来れば、もう引き返せませんな。商人ギルドに目をつけられ、冒険者ギルドは全滅あるのみです……」
しかも頭を抱えて座り込むという始末。こんなんでどうやってギルドマスターまで上り詰めたんだか。
「ったく、このチキン野郎、鶏みてえに絞めてやろうか!?」
「ひぎゃっ!?」
「なあ、ナモルさん。パーティーリーダーの俺から言わせてもらえば、全滅するのは商人ギルドのほうだと思うぜ」
「えっ……」
ファグの自信に満ち溢れた言葉を聞き、きょとんとした顔になるナモル。
「僕もそう思うよお、ナモルさん。ユートの強さは、世界最強クラスなんだから!」
「うむ、ナモルとやら。ユートの勇猛さというのは、わしの頭がすっかり禿げあがるほどじゃ」
「それは元からでしょ、キーン? とにかく、ナモルって人。ユートの腕は本物よ」
「わふう、わたしもご主人さまの凄さ、ほしょーするよ!」
「…………」
ミア、キーン、リズ、モコがファグに続いて俺の強さをアピールすると、ナモルが急に立ち上がり、目を輝かせながら俺の手を握ってきた。猫の獣人だから当然だが肉球なのでぷにぷにだ。
「そんなにお強い方だとは知りませんでした。是非、商人ギルドをぶっ潰してください」
「いや、それはできない」
「「「「「ええぇっ!?」」」」」
俺の発言がよっぽど意外だったのか、みんなが注目してくるのがわかる。
「商人ギルドと全面戦争なんかやったら、周りの被害も相当なものになるからだ。勝ったとしても焼け野原で、今度は商品を売る側がいなくなるから不便になる」
「「「「「……」」」」」
これには、全員が納得した様子だった。商人ギルドに問題があるといっても、彼らが全て奴隷を使うような悪人というわけじゃないだろうし、それを全部潰してしまうのは大きな損失にも繋がる。
「し、しかしですな、ユートさん。やつらを潰せないならどうすればよろしいのですかな……?」
「ナモルさん、ここに来る前に言ったでしょう。いい考えがあるって。それを今から話そうかと思います」
「おおっ、それは是非どんなものか聞きたいですな」
「とはいえ、ここは人の目があるんで、商人ギルドのスパイがいる可能性も考えると別の場所のほうがいいかなと……」
「わかりました。では、とっておきの秘密の場所へとご案内いたしましょう」
【隠遁術師】っていうスキルを持つこともあり、ギルドマスターの言葉は妙に頼もしかった。
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