一六六話


 ギルドマスターのナモルが言う秘密の場所、それは冒険者ギルドの奥にあるということで、俺たちは彼の案内でそこへ向かっていたわけだが、中々辿り着けずにいた。


 というのも、途中で幾つも分岐した通路や見せかけの扉が数多く存在するというなんとも複雑な造りであり、まさに迷路のような構造になっていたからだ。


「――むっ……」


 やがて、先頭を歩いていたナモルが何かを確信したような表情になり、とある扉の前で立ち止まった。ようやく着いたんだろうか。


「間違いない……。私たちは確実に道に迷いました。ここから離れている間に、すっかり秘密の場所がどこにあるか忘れてしまいましたニャー」


「「「「「……」」」」」


 わざとらしく猫の振りをして顔を洗い始めるナモルを前に、俺たちはしらけた顔を見合わせるしかなかった。


「ナモルッ! おいてめえ、しまいにゃ『バウンドレーザー』食らわすぞっ!」


「ひ、ひぎゃあぁっ……!?」


 スーパーラビの両目が光り輝いたこともあり、ナモルが毛を逆立てながら悲鳴を上げた。これがどういうものか、もう本能でわかるんだろうな。食らったら絶対死ぬやつだって。


 それからは俺が『ガイド』の魔法を使い、出現した矢印通りに進んですんなりと目的地へと到着することに成功したのだった。


「――ふう。ようやく着きましたな。ここが秘密の場所、すなわちギルドマスターである私の部屋なわけです」


「「「「「……」」」」」


 秘密の場所といっても、窓が一つもないだけでなんの変哲もない普通の部屋に見えるが、ギルドマスターの自室だったのか。ここまで迷路になってるのはおそらく防犯対策なんだろう。《チキンキャット》の称号に相応しいな。さて、とっとと話を進めるか。


「早速だけど、俺の考案した計画について話そうと思う」


 ここまで時間がかかりすぎたこともあり、俺は着いて早々にみんなの前でそう切り出した。


「俺たちは商人ギルドそのものを潰すんじゃなく、冒険者に圧力をかけてくる下位の商人だけ懲らしめればいいんだ」


「けどよ、ユート。下位商人だけやっつけるために誘き寄せるっていうのはわかるんだが、それをやるにはどうすりゃいいんだ?」


「ああ、ファグ、それは俺の分――いや、俺自身が囮になればいいんだ。弱い冒険者の振りをして」


 危ない危ない。危うく『俺の分身』と口にするところだった。もし分身を使ってることがバレたら、不信感を生む可能性があるからなるべく言わないほうがいいだろう。今まで一緒にやってきたのが偽物だと思われてしまう。


「んー、ちょっといいか、ユート!」


「なんだ、ラビ?」


「オレから言わせりゃよ。そんなまどろっこしい真似はせずに、普通に殴り込んで下位商人どもを全員ぶちのめせば早いんじゃねーの? そうすりゃ上も大人しくなるだろうよ」


「いや、これは闘争じゃなく、商人ギルドに対する見せしめなんだ」


「「「「「見せしめ……?」」」」」


「ああ。ラビのやり方だと、相手が見下してる冒険者だし、立場の低い商人がやられたのだって奇襲されたせいだって思い込むだろ。それじゃ報復の連鎖を生むだけだ。そうじゃなくて、商人ギルドに対する見せしめとして、冒険者の中にやばいのがいると認識させるためにも、ゆっくり少しずつ浸透させる必要があるんだ。そうすれば、やつらは本当の意味で冒険者を認めてくれるようになると思うし、仕入れをさせるための奴隷も必要がなくなって買わなくなる」


「「「「「なるほど……」」」」」


 みんな俺のやり方に納得してくれた様子。さあて、そうと決まったら、早速作戦を実行に移すとしようか。

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